2021-08-01から1ヶ月間の記事一覧
●『ペドロ・パラモ』の時系列を混乱させている主な原因は、幽霊たちのざわめきであって、母との約束のために余所からコマラへやってくるフアンが経験する出来事は時系列順に並んでいるし、小説の中心人物であるペドロの生い立ちの流れも、一部を除いてほぼ時…
●『ペドロ・パラモ』には、三人称で書かれる「ペドロ・パラモが支配するコマラに生きる人々」の部分と、一人称で書かれる「幽霊たたちのさざめき」の部分があると言えるが、《天井の半分が落ちた》部屋に住む男女のパートは、そのどちらにも属さない特殊な部…
●『ペドロ・パラモ』は、コマラという土地の死者たちの声が響く小説だ。だから、余所からコマラを訪れたフアン・プレシアドの出来ることは、ただ死者たちの声に耳を傾けることだけとなる。ただし、この小説にはもう一人、余所からコマラへやってくる人物がい…
●お知らせ。VECTIONによる「苦痛トークン」についてのエッセイの第四回めをアップしました。「苦痛トークン」の具体的なイメージが示されます。 苦痛のトレーサビリティで組織を改善する 4: 苦痛トークンとはどんなものか https://spotlight.soy/detail?arti…
●『ペドロ・バラモ』の最初の語り手であるフアン・プレシアドは、(異母兄弟であり、小説のラストでペドロ・パラモを殺す人物でもある)ロバ追いのアブンディオによってコマラという土地に招き入れられ、エドゥビヘス・ディアダを紹介される。エドゥビヘスはフ…
●『ペドロ・パラモ』を読んだ。これを読むのもずいぶんと久しぶりだ。 ●「読書メーター」って、けっこういいものなのだなあと思った。ゼロ年代当初くらいにあった、いい感じのテキストサイトの香りがいまもなお生き残っているというのか。浅すぎないが、深す…
●坂元裕二脚本の『スイッチ』をU-NEXTで観た。松たか子のキャラはとても面白いし、松たか子と阿部サダヲの関係のありかたも面白いと思ったのだが、二人がそのようにある理由というか原因の説明が、強引過ぎる上にあまり面白いとも思えないもので、これだった…
●「やまと尼寺 精進日記」に出てくる観音寺は、ふもとの里から山道を40分登っていったところにある。檀家をもたず、墓地もないようなので---いわゆる「葬式仏教」の寺ではないようなので---寺の運営は、基本的に「信者さん(という言い方を寺の人たちはする)…
●すぐ裏で建物の解体作業をしていて、一日中、騒音と、軽めの地震がつづいているくらいの振動がある。作業は朝八時からはじまる。昼夜逆転している生活なので、朝八時といったら、まだ寝てから二、三時間くらいしか経っていないが、起こされることになる。耳…
●昨日の日記に書いたこととも関係するが、西川アサキさんの「分散化ソクラテス」という問題意識はとても重要なことだと思う。政治的な言説に対する根本的な不信は、その多くが意図的にバイアスがかけられたポジショントークでしかないというところからくる。…
●お知らせ。VECTIONによる「苦痛トークン」についてのエッセイの第三回めをアップしました。苦痛トークンというアイデアの元にある思想「PS3(Pain, Scalability, Sustainability, Security)」には、他者への共感と関心が含まれているという話です。。苦痛…
●(昨日からつづく)『流れよわが涙、と警官は言った』で、アリスはある意味でキャシイの投影像のようなものであり、キャシイはアリスの「内容」であるとも言えると思う。ディックは、アリスの混乱を具体的に描くかわりにキャシイという人物を造形したように読…
●ディックの『流れよわが涙、と警官は言った』を久しぶりに読み直した。この小説は、前半では、遺伝子操作によってスペックが強化された(過剰な性的魅力をもつ)人気番組の司会者であり歌手であるジェイスン・タヴァナーが、自分という存在の痕跡の一切が消え…
●とりあえず、今日することはこれで終わりとした後、風呂に入って、上がってから簡単なアテをちゃちゃっと作って、あとは寝るだけという状態で寝酒をする。この時に、たいてい、酒を呑んでいる番組(動画)か、なにかを作って食べている番組(動画)を、ネット配…
●(下の、小鷹研理さんのツイートをみて…)夢の中で、この夢は何度も繰り返し見たと思うことはわりとあるが、本当にその夢をくり返し見ているのか、その都度「この夢は何度も繰り返し見た」と思う別の夢を見ているのか、よく分からない。 《夢見の主観状態に限…
●『灯台へ』(河出書房新社世界文学全集)の、巻末の鴻巣友季子による解説によれば、この小説を読んだウルフの実姉ヴァネッサは、「気味がわるいくらい実物に忠実に書かれている」と言ったそうだ。ウルフは四人きょうだいの三番目の子だが、父、母とも再婚で、…
●夢。横浜から電車で二十分くらいの郊外の街。住宅街でちらほら畑もあるが、駅からやや離れたところに、大きなビルが建っていて、それはホテルであるらしい。そのビルを目印のようにして、地図をみながら目的地を探して歩く。はじめて降りた駅だが、友人の友…
●まだ、「第一部 窓」を読んだだけだが、ウルフの『灯台へ』の鴻巣友季子・訳がとてもいい感じなので、東工大の講義はこの訳をもとにして行おうと思った。(こちらもとても好きな) 伊東只正の訳と比べてみるというのもいいかもしれない。 話者も含めた、様々…
●アマゾンのプライムビデオで『シン・エヴァンゲリオン劇場版』を観ようと思ったのだが、Prime会員しか観られないやつだった(カードがないので会員になれない…)。 ●東工大の講義のカフカ回は、最初に「村での誘惑」でスラップスティック的側面に軽く触れた後…
●しつこく蒸し返すようだが、カフカ『審判』(『訴訟』)の「叔父・レーニ」の章の冒頭近くの訳について。 岩波文庫の辻ヒカルの訳では、《Kは叔父の姿を見ても、もうかなりまえに叔父が来ることを想像して驚いたときほどには驚かなかった》と、ひっかかりのあ…
●東工大の講義のカフカ回で、どの作品を取り上げるのかがまだ決められなくて悩んでいる。 おそらく、カフカの面白さにはごく大雑把に分けて次の二つの方向がある。一つは、具体的でスラップスティックな出来事とその意外な展開の面白さ。もう一つは、飛翔も…
●オーソン・ウェルズの『審判』をDVDで観た。普通に観ると、けっこう原作に忠実だと思うかもしれないが、カフカの小説を読んだ直後に観たので、むしろ違いの方を強く感じた。出来事の流れというか、話の展開の仕方は基本的に小説の展開に従っている。でもそ…
●カフカの『審判』として広く出回っているのは、カフカの死後、マックス・ブロートによって編集されたもので、ブロートの意図が入ってしまっている。それに対して、カフカの研究者たちによって、よりカフカの草稿に忠実な「史的批判版」の全集が出ていて、た…
●お知らせ。VECTIONによる「苦痛トークン」についてのエッセイの第二回めをアップしました。今回は、苦痛トークンというアイデアの元にある思想として、望ましい組織の条件「PS3(Pain, Scalability, Sustainability, Security)」を示しています。 苦痛のト…
●カフカの『審判』(岩波文庫、辻ひかる・訳)を読み返している(今日は第六章まで読んだ)のだが、普通にすごくおもしろい。ヨーゼフ・Kはクソ野郎だし、全体の構造としては悪夢的と言えるのだろうが、個別の場面のつくりは下品なコメディみたいだ。短篇ではそ…
●ちくま文庫の「カフカ・セレクション」を読んでいて、息抜きに「訳者あとがき」(「Ⅱ」の柴田翔のもの)をパラパラみていたら、衝撃的なことが書いてあって、「知らなかった…」としばらく手が止まった。〔中庭への扉を叩く〕という、ごく短い作品(ぼくはこれ…
●昔大好きで読んだ、カフカの「日記」を久々にパラパラとめくって読んでいる。ぼくの日記好きは、おそらくカフカの「日記」を読んだことからきている。フィクションがたちあがる瞬間が、たくさん、玉石混淆、無造作にごろごろっと転がしてある。新潮社 カフ…
●きちんと定義できるわけではないどころか、今朝、思いついた(三浦俊彦の講演を観ての)思いつきなのだけど、フィクション、思考実験、シミュレーション、可能世界は、それぞれ、かなり近い位置にいて密接に相互作用しているのだけど、その出自というか、「現…
●昨日の日記でリンクを貼った三浦俊彦の講義をとても面白く食い入るように観たのだが、同時に、一時、三浦俊彦の本を熱心に読んだり、分析哲学系のフィクション論の本を何冊か読んだりしながらも、そこで追求されている「フィクション論」のなかにあるフィク…
●10月から大学で講義をするので、参考のために時間がある時に「講義動画」を探して観ている。下にリンクした動画もそのひとつ。50分程度の時間のなかにとても面白いストーリーが構築されていて見事な講義だと思う(とはいえ、聴衆がこの流暢さに細部まできち…