⚫︎VECTIONの会議で話題になったBloombergの記事。世界の情勢は我々の直感的把握(たとえば、大国の横暴、右傾化と自国中心主義の台頭=グローバリゼーションの終焉、国際的な「法の支配」の崩壊など)とはけっこう違っている、というもの。《新たな世界秩序は、覇権なき結び付きによって定義されるだろう。多くの国家および非国家主体が、特定の課題や必要性に応じてより流動的に結集し、大規模な国際機関を補完しつつ、置き換えるネットワークの束を形成する。貿易や公衆衛生、気候変動のように分散的な対応が適する問題では、むしろ改善する可能性もある。》
・トランプ氏以後の秩序を理解する三つの潮流-危険も協調も併存する世界へ(Bloomberg)
https://www.bloomberg.com/jp/news/articles/2026-05-08/TDS2VET9NJM100#gsc.tab=0
三つの潮流を把握する必要があると記事には書かれている。
一つ目は、国家間の力の再分配。ここでは、過去500年にわたって続いてきた欧米圏の支配が終わると言われている。《過去5世紀にわたり西側・北側に集中していた力は、東側・南側へと移行している。1990年から2025年にかけ、世界の域内総生産(GDP)に占める主要7カ国(G7)の割合は半分から4分の1へと縮小した一方、中国、インド、東南アジアの割合は15%から55%へと拡大した。》これは下のグラフを見れば明らかだ(グラフは記事よりスクショした)。薄々勘づいてはいたが、ここまではっきり示されると、もうこの流れは変わりようがないと思える。

この流れは中国の台頭にとどまらない。《特に発展途上国を中心に、地域的、さらには世界的なリーダーシップを発揮する国が増えている。ポーランドはまもなく欧州最強の軍事力を持つ見通しであり、トルコは世界で3番目に大きい外交ネットワークを有する。カタールは紛争仲介に不可欠な存在となった。》また、インド、ブラジル、南アフリカなどが、ロシアのウクライナ侵攻に対するアメリカの方針に逆らったり、トランプから関税で圧力をかけられたインドが中国との関係を深めたりもした。そして、あらゆる分野でグローバルサウスが存在感を高めている。
二つ目は、国家から、非国家主体(企業やNGO)への力の移行。これもまた、日々、「国家権力の横暴」ばかりを見せつけられているように感じている我々の直感と異なるものだが。《非国家主体の富や影響力、能力はしばしば国家を上回る。ウォルマートの売上高はスウェーデンのGDPを上回り、メタのアプリは毎日35億人以上が利用している。国際的なNGOの数は1955年の約1000から4万5000以上へと急増した。生成AIや半導体、宇宙探査機といった地政学的に重要な技術は、政府の関与が限定的なまま民間部門によって開発されている。》《非国家主体の力を示す例として、スターリンクほど分かりやすいものはない。小規模または中規模の軍隊が戦場における信頼性の高い通信手段を必要とする場合、イーロン・マスク氏と交渉する必要がある。》
記事にはないが、そういえば最近、自社のAIを戦争に用いることを拒否したアンソロピック社が、トランプから睨まれて存亡の危機かと思いきや、クロード・ミトスの性能があまりにすごいのでトランプが手のひらを返した(認めざるをえなかった)ということがあった。
三つ目は、世界的な結びつきのさらなる強化。コロナ以降いっそう、世界的に(ポピュリズム的な)右傾化が進み、多くの政治家や民衆が内向きとなり、自給自足やサプライチェーンの国内化を訴えているように我々には感じられるが、必ずしもそうではないと記事は主張している。《グローバリゼーションは終焉を迎えたと言われることが多いが、実際にはポピュリズムやパンデミックを経ても持ちこたえている。米国の実効関税率が2.2%から約10%へと急上昇したにもかかわらず、世界貿易は過去10年と同様のペースで拡大すると予測されている。海外直接投資(FDI)は2025年に14%増加した。》《ヒトの移動も続いており、移民は国際的に増加している。(…)条約に基づく正式な国際機関の数は1990年代後半にピークを迎えたが、非公式な枠組みや専門会議、小規模な課題別サミットは急増している。》
⚫︎このような潮流を受けて、記事は次のように主張する。
《過去100年の大半において、国家はイデオロギーや政治体制、文化に基づく比較的安定した勢力圏を形成してきた。共産主義対資本主義、西側対その他、文明の衝突といった構図だ。》《だが、結び付きが強まり、かつ力が分散した時代となり、こうした構造は崩れてきている。各国は主体性と選択肢を増す中で、その関係はより流動的で、機会主義的かつ矛盾をはらむものになっている。》《地政学における新常態は「ポリアモリー(複数のパートナーと合意の上で誠実かつオープンな親密関係を築く恋愛スタイル)」だ。》
関係の流動化により世界は不安定になり、もはや「安全保障同盟」が絶対的保障とはなりえない。このような状況の中では大国ではなく「中堅国」の動向が全体に大きく影響するようになる、と。《この新たな環境では中堅国が重要な役割を果たす。「スイングステート(米大統領選の勝敗を左右する激戦州)」のように地政学的な力の均衡を左右する存在として行動することもあれば、カナダのカーニー首相が述べたように「共通の価値や利益に基づき課題ごとに異なる連合を組む可変的な幾何学」を追求することもある。》
⚫︎このような状態は、「希望」でもあり「危険の増大」でもある、と。
希望。《国際的な犯罪やAIを巡る基準、宇宙領域の問題も、ポリアモリー型の世界で協力が進みやすい技術的課題だ。これらは多くの国や非国家主体が利害を共有し、単一の大国や機関に依存せず進展し得る課題といえる。》《トランプ政権の敵対的姿勢にもかかわらず、気候変動対策も前進するだろう。国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の下での排出削減合意は、各国にまたがる問題に適していなかった。市場インセンティブや戦略的利益、価値観に後押しされ、中国のような排出大国から都市、慈善団体、炭素市場のマーケットメーカー、民間投資家まで多様な主体がエネルギー転換を進めている。企業も「グリーンウォッシング」か「「クリーンハッシング」へと移行している。》
危険の増大。《安全保障は中央集権的な権威の恩恵を受けやすい分野だ。不完全で選択的ではあったものの、米国の覇権は領土侵略の抑止として機能してきた。校長のいない学校のように、今やいじめっ子は大胆になり、衝突が起きやすくなっている。現在、第二次世界大戦以降で最多となる国々が紛争状態にある。》《新たな世界大戦のリスクは高まっている。だが、より深刻なのは不確実性の増大だ。織り込みが可能なリスクと異なり、不確実性は計測できない。システムが複雑化する中で、これまで想定されていなかった未知の事象が現実の可能性として浮上してくる。》
《協調と混乱のどちらが優勢となるかを歴史が予言することはできない。》