2026/05/15

⚫︎いまやっているのは、一日中ひたすら文章を読み続けるという作業なのだが、それに対して、12日から14日の日記にあげている作品の制作は、まったくとまでは言えないかもしれないが、ほぼ「言語を介することのない思考」の過程を積み重ねる行為なので、これをすることで頭がスッキリするというか、目詰まりがとれる感じがする(つくっている時、頭の中に言葉はない)。とは言え、これはこれで頭を刺激して興奮させる行為なので、寝る前にこれをすると頭がスッキリすると同時に興奮して眠れなくなる。で、できた作品を観ながら酒を飲むことになる。

(追記。「言語を介さない」という言い方はなんか特別なことをしているみたいでよくないかも。言語を使って何かを組み立てることと、色と形を使って何かを組み立てることとの違いは、色と形を使って何かを組み立てることと、音とリズムを使って何かを組み立てることとの違いと「同じ」で、ただ、用いるものが違えば、その「用いるものの性質(法則)」の違いがあるので、組み立てのやり方とか踏むべきプロセスが違ってくるし、それに応じて頭や身体の使い方も変わって、そこで行われる思考の傾向も異なるので、たとえば「陥りやすい罠」とかもそれぞれ違う、というこでしかない。)

(しかし、それらのことを「計算機」は非常に強力なやり方で網羅的に模倣(シミュレーション)することができてしまう、というのが現在我々が直面していることだと思う。)

2026/05/13

⚫︎文房具絵画(combo)2026年(2)

(追記。今月はずっと引きこもってやらなければならない作業があって、これらの作品はいわば、その作業によってかかるストレスを解消するために作られている。その意味でこれらは、ただただぼく自身の「目の楽しみ」のために特化したものだ。自分の作品を観ることがとても楽しい。ぼくはこれらの作品を観ながらいくらでも酒が飲める。)

 

2026/05/11

⚫︎おお、笠井潔『夜と霧の誘拐』が本格ミステリ大賞なのか。普段「賞」にはほぼ関心がないが、ここにきて笠井潔が盛り上がっているのはちょっと熱い。『バイバイエンジェル』を読んだのが高校生の時(80年代半ば)で、『哲学者の密室』を読んだのが大学生の時(90年代初頭)だ。その後、矢吹翔シリーズの最高傑作と言われる『オイディプス症候群』がゼロ年代初め(2002年)に出るのだが、その次、2011年に出た『吸血鬼と精神分析』が、テンション的にもクオリティ的にも明らかにダウンしているように思われ、そこで関心が離れたのだが、そこからも、2022年に『煉獄の時』(未読)、2025年に『夜と霧の誘拐』(未読)と、シリーズは着実に続いていたのだなあ、と。

ただ、『煉獄の時』も『夜と霧の誘拐』も、2010年には連載が完結していて、『煉獄の時』はそれから11年、『夜と霧の誘拐』はそれから15年経ってから本になっている。明らかにテンションが落ちた『吸血鬼と精神分析』(2008年連載完結で2011年に本になった)から、意識的な立て直しというか、再構築のようなことがなされたのかもしれない。

いや、違うか。Wikipediaを見ると、『吸血鬼と精神分析』『煉獄の時』『夜と霧の誘拐』『魔の山の殺人(未刊行)』の四作は、2008年から2015年の7年の間に連載が次々に完結しており、『哲学者の密室』以降、ほぼ十年に一作だったペースが、逆にここで著しく早くなっているのか。この時期に笠井潔は60歳代に入っているので(2008年に60歳)、体力があるうちに出せるものはとにかく出し切って、その後に、体力と時間が残っていれば推敲を重ねようという目論見だったのかもしれない(勝手な推測です)。

(批評家としての功績、「大量死理論」や「後期クイーン的問題」の問題化、『容疑者Xの献身』論争などは、ここでは触れない。)

⚫︎『夜と霧の誘拐』の本格ミステリ大賞受賞というのは、読書系YouTuber泣かせなのではないか。ぼくが観ている範囲で、ミステリ系のYouTuberで笠井潔をちゃんと読んでいる人はほぼいない(プロの書評家、みたいな人は別にして)。ただ、「読書サロン 朋来堂」というグループの人たちが、「矢吹翔」という他にはいない強めの(というか「激強」の)キャラをとても気に入って、すごく楽しそうにおしゃべりしている動画をあげているのを観たくらいだ。しかし、「賞」を常に話題(ネタ・糧)とするYouTuberたちにとっては「本格ミステリ大賞」をスルーすることはできないだろう。

でも、笠井潔を初めて読むとしたら、それはけっこう大変なことだ。まず分厚い。しかも、仮に同じくらい分厚いとしても、京極夏彦を読むのに比べると4、5倍(倍率は「修辞」なので適当です)はハードだと思われる。文章が華美で装飾的だということもあるし、さらに、ミステリ部分も「思想」部分も、ロジックにロジックをギチギチに重ねてくる。思想強め、どころか、思想激強、だ。え、この「思想」をどう処理したらいいの ? 、となるはず。しかもシリーズ8作目なので、最初から全部読むとなるととんでもなく大変だ。

しかし、シリーズ読破、みたいな無謀なことをする、若い(別に若くなくてもいいが)YouTuberが現れることを、ちょっと期待している。そこまで行かなくても、若い人たちが「これ」にどう反応するのかみてみたいという気持ちがある。

(いや、まず、ぼくがまだ読んでいないのだ。)

(余談。笠井潔は、80年代には、ミステリ作家・批評家としてよりも『ヴァンパイヤー戦争』という伝奇小説の書き手として知られていた。全11巻のこの小説の、3巻目くらいまでは読んだ覚えがある。)

 

2026/05/10

⚫︎昨日に続いて(ちょっと前のことだが)VECIONの会議で話題になった、これはGigazineの記事。ここでイーロン・マスクは、すごく真っ当なこと、というか、ごく「普通のこと」を言っていると思うのだが、なぜ、みんなそんなに批判するのかわからない。

・イーロン・マスクがAIによる解雇に対し給付金を送る「ユニバーサル・ハイインカム」で対応すべきと発言し批判が殺到(Gigazine

gigazine.net

この期に及んで「個人の自由(≒自分の能力)」にそんなに自信があるのか、とびっくりする。AIが台頭しても自分だけは(あるいは、誰であれ上手くやれさえすれば)大丈夫だ、と、本気で思っているのだろうか。多くの人に共有されている(ようにどうしても見えてしまう)、「人間」に対するあまりに過剰な信頼には恐怖すら感じる。今の世界を見渡して、どうしてそんなに「人間」を信頼できるのか。

(《心理学教授のジェフリー・ミラー》の言葉に軽くムッとしてしまう。《ミラー氏は世界中の人々が給付金で暮らすビジョンを「80億人を生産的で価値ある市民から、AI産業の乳房に吸いつく永遠のパラサイトに変える」と表現しています》。人のことを勝手に「生産的で価値ある市民」とか決めつけるんじゃねえよ、オレには生産性も価値もねえんだよ、ただ生きてんだよ ! )

(《インド財務大臣の元首席経済顧問であるサンジーヴ・サニヤル氏は「マスク氏の考えは間違っています。AIは確かに混乱を引き起こすと考えられますが、あらゆる技術と同様に、中期的には新たな雇用と機会も生み出すでしょう(…)》。え、それ本気で言ってる ? 、と思ってしまうよ。)

⚫︎ただ、この記事に書かれている、ユニバーサル・ハイインカム(≒ベーシックインカム)に反対する人たちの意見は、十年くらい前に、日本でベーシックインカムが少し話題になった時に反対していた人たちの意見とほぼ同じで、ちょっと懐かしい感じすらする。ベーシックインカムにかんしては、珍しくアメリカ(あるいはヨーロッパ以外の「世界」)より日本の方が議論が先行しているように思う。そして、今の日本では(十年前よりもさらに不況や貧困が深刻化しているのもあって)、ベーシックインカムに強く反対する人は以前よりは減ったのではないか。その意味では、これは時間の問題かもしれない(しかし、そんなに時間的な余裕はないと思うけど)。

⚫︎なぜ生活保護ではなくベーシックインカムなのか、というと、「誰にどのくらいの金を分配するかを決める」権利こそが「権力」で、その権利を持つ奴こそが「権力者」なので、そのような権力・権力者をなるべく介在させないように(つまり「人による裁量」をなるべく介在させないように)一律支給であることが望ましいと考えるから。

⚫︎とはいえ、日本では今のところ、緊急の課題は「人手不足」の方で、AIによる失業はまだそんなにリアルではない感じだと思われる。あるいは、中東情勢と中国との関係悪化(さらに円安)による「モノ不足」が深刻になってAIのことなど意識に上がらなくなるかもしれない。でも、これはもうすぐにくることだろうと思われる。

2026/05/09

⚫︎VECTIONの会議で話題になったBloombergの記事。世界の情勢は我々の直感的把握(たとえば、大国の横暴、右傾化と自国中心主義の台頭=グローバリゼーションの終焉、国際的な「法の支配」の崩壊など)とはけっこう違っている、というもの。《新たな世界秩序は、覇権なき結び付きによって定義されるだろう。多くの国家および非国家主体が、特定の課題や必要性に応じてより流動的に結集し、大規模な国際機関を補完しつつ、置き換えるネットワークの束を形成する。貿易や公衆衛生、気候変動のように分散的な対応が適する問題では、むしろ改善する可能性もある。

・トランプ氏以後の秩序を理解する三つの潮流-危険も協調も併存する世界へ(Bloomberg

https://www.bloomberg.com/jp/news/articles/2026-05-08/TDS2VET9NJM100#gsc.tab=0

三つの潮流を把握する必要があると記事には書かれている。

一つ目は、国家間の力の再分配。ここでは、過去500年にわたって続いてきた欧米圏の支配が終わると言われている。《過去5世紀にわたり西側・北側に集中していた力は、東側・南側へと移行している。1990年から2025年にかけ、世界の域内総生産(GDP)に占める主要7カ国(G7)の割合は半分から4分の1へと縮小した一方、中国、インド、東南アジアの割合は15%から55%へと拡大した。これは下のグラフを見れば明らかだ(グラフは記事よりスクショした)。薄々勘づいてはいたが、ここまではっきり示されると、もうこの流れは変わりようがないと思える。

この流れは中国の台頭にとどまらない。《特に発展途上国を中心に、地域的、さらには世界的なリーダーシップを発揮する国が増えている。ポーランドはまもなく欧州最強の軍事力を持つ見通しであり、トルコは世界で3番目に大きい外交ネットワークを有する。カタールは紛争仲介に不可欠な存在となった。》また、インド、ブラジル、南アフリカなどが、ロシアのウクライナ侵攻に対するアメリカの方針に逆らったり、トランプから関税で圧力をかけられたインドが中国との関係を深めたりもした。そして、あらゆる分野でグローバルサウスが存在感を高めている。

二つ目は、国家から、非国家主体(企業やNGO)への力の移行。これもまた、日々、「国家権力の横暴」ばかりを見せつけられているように感じている我々の直感と異なるものだが。《非国家主体の富や影響力、能力はしばしば国家を上回る。ウォルマートの売上高はスウェーデンのGDPを上回り、メタのアプリは毎日35億人以上が利用している。国際的なNGOの数は1955年の約1000から4万5000以上へと急増した。生成AIや半導体、宇宙探査機といった地政学的に重要な技術は、政府の関与が限定的なまま民間部門によって開発されている。》《非国家主体の力を示す例として、スターリンクほど分かりやすいものはない。小規模または中規模の軍隊が戦場における信頼性の高い通信手段を必要とする場合、イーロン・マスク氏と交渉する必要がある。

記事にはないが、そういえば最近、自社のAIを戦争に用いることを拒否したアンソロピック社が、トランプから睨まれて存亡の危機かと思いきや、クロード・ミトスの性能があまりにすごいのでトランプが手のひらを返した(認めざるをえなかった)ということがあった。

三つ目は、世界的な結びつきのさらなる強化。コロナ以降いっそう、世界的に(ポピュリズム的な)右傾化が進み、多くの政治家や民衆が内向きとなり、自給自足やサプライチェーンの国内化を訴えているように我々には感じられるが、必ずしもそうではないと記事は主張している。《グローバリゼーションは終焉を迎えたと言われることが多いが、実際にはポピュリズムやパンデミックを経ても持ちこたえている。米国の実効関税率が2.2%から約10%へと急上昇したにもかかわらず、世界貿易は過去10年と同様のペースで拡大すると予測されている。海外直接投資(FDI)は2025年に14%増加した。》《ヒトの移動も続いており、移民は国際的に増加している。(…)条約に基づく正式な国際機関の数は1990年代後半にピークを迎えたが、非公式な枠組みや専門会議、小規模な課題別サミットは急増している。

⚫︎このような潮流を受けて、記事は次のように主張する。

過去100年の大半において、国家はイデオロギーや政治体制、文化に基づく比較的安定した勢力圏を形成してきた。共産主義対資本主義、西側対その他、文明の衝突といった構図だ。》《だが、結び付きが強まり、かつ力が分散した時代となり、こうした構造は崩れてきている。各国は主体性と選択肢を増す中で、その関係はより流動的で、機会主義的かつ矛盾をはらむものになっている。》《地政学における新常態は「ポリアモリー(複数のパートナーと合意の上で誠実かつオープンな親密関係を築く恋愛スタイル)」だ。

関係の流動化により世界は不安定になり、もはや「安全保障同盟」が絶対的保障とはなりえない。このような状況の中では大国ではなく「中堅国」の動向が全体に大きく影響するようになる、と。《この新たな環境では中堅国が重要な役割を果たす。「スイングステート(米大統領選の勝敗を左右する激戦州)」のように地政学的な力の均衡を左右する存在として行動することもあれば、カナダのカーニー首相が述べたように「共通の価値や利益に基づき課題ごとに異なる連合を組む可変的な幾何学」を追求することもある。

⚫︎このような状態は、「希望」でもあり「危険の増大」でもある、と。

希望。《国際的な犯罪やAIを巡る基準、宇宙領域の問題も、ポリアモリー型の世界で協力が進みやすい技術的課題だ。これらは多くの国や非国家主体が利害を共有し、単一の大国や機関に依存せず進展し得る課題といえる。》《トランプ政権の敵対的姿勢にもかかわらず、気候変動対策も前進するだろう。国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の下での排出削減合意は、各国にまたがる問題に適していなかった。市場インセンティブや戦略的利益、価値観に後押しされ、中国のような排出大国から都市、慈善団体、炭素市場のマーケットメーカー、民間投資家まで多様な主体がエネルギー転換を進めている。企業も「グリーンウォッシング」か「「クリーンハッシング」へと移行している。

危険の増大。《安全保障は中央集権的な権威の恩恵を受けやすい分野だ。不完全で選択的ではあったものの、米国の覇権は領土侵略の抑止として機能してきた。校長のいない学校のように、今やいじめっ子は大胆になり、衝突が起きやすくなっている。現在、第二次世界大戦以降で最多となる国々が紛争状態にある。》《新たな世界大戦のリスクは高まっている。だが、より深刻なのは不確実性の増大だ。織り込みが可能なリスクと異なり、不確実性は計測できない。システムが複雑化する中で、これまで想定されていなかった未知の事象が現実の可能性として浮上してくる。

協調と混乱のどちらが優勢となるかを歴史が予言することはできない。