2024/07/19

⚫︎お知らせ。スペースとしてはささやかですが、小説集『セザンヌの犬』が宝島社の雑誌「リンネル」9月号で紹介されています。女性向けファッション誌で取り上げられるのは意外なことですが、編集の方がたまたま本屋で見かけてジャケ買いしたという経緯を聞いています。下の写真は山本浩貴さんがXでポストされたものをお借りしました。

⚫︎『君たちはどう生きるか』(宮崎駿)をブルーレイで観た。驚いた。思っていたのと全然違った。

いや、ある意味では思っていた通りだった。中盤以降のファンタジー世界に入ってからの展開は、よく言えば宮崎駿節全開、悪く言えば手癖が見える。よく言えば集大成、悪く言えば、今まで散々宮崎駿の映画で観てきたことのバリエーションを延々観ている感じ。ただし、かなり力がこもっていて衰えはほとんど感じられない。そこはすごい。

驚いたのはそこではない。この作品は、ファンタジー世界に入っていく前の、現実世界というか、半は現実で半ばファンタジーであるようなあわいの世界のパートが、前半たっぷりと40分から50分くらいある。このパートが息を呑むくらい素晴らしかった。そして何より、このパートでは、いままでの宮﨑駿の映画では観たことのない、新しい宮﨑駿の世界が出現していた。細かく観ていけば、細部の作り方や演出の技法はこれまでとそんなに変わらないのかもしれないが、似たようなパーツを使っていたとしても、それによって組み立てようとしているものがかなり違う。宮﨑駿的なマジックリアリズムの世界とでもいうようなものができている。これが素晴らしかった。

(なんというのか、特異な身体能力とサスペンスによって引っ張るということをしない、描写とイメージ展開の鮮やかさのみで勝負する宮﨑駿、という感じ。)

できれば最後までこの感じで行ってほしいと思ったが、途中からはお馴染みの宮﨑駿になった。だがそれも悪くはない。何より重要なのは、前半の4、50分のパートが存在しているということだ。80歳を過ぎた巨匠が、たんに力が衰えていないというだけでなく(むしろ「力が衰える」ことができないというのは弱点かもしれないが)、まだまだ新しいものを作り出せる(たんに「新作」を作れるというのではなく、新たな局面を切り開ける)というのは、すごいと思うと同時に、もはや若くもない自分にとっての希望でもある。

(初期宮崎の到達点が「ラピュタ」で、第二期宮崎のピークが「千と千尋」だとして、ここから第三期宮崎が新たに始まるのではないか、とさえ、最初のパートを観ている時は思っていた。)