アンゲロプロスの『シテール島への船出』をビデオで観ていて思いだした、映画とは関係のないこと。ぼくがこの映画をはじめて観たのはテレビで、何時だったか正確には思い出せないが80年代半ばであることは間違いなくて、フジテレビでやっていた「ミッドナイト・アートシアター」という番組でだった。(この番組は、映画をCMによる中断なしで放送していた。)で、『シテール島への船出』が放送された時、解説者として、映画評論家の品田雄吉ともう一人、何故か(当時ほとんど知られていなかったはずの)洞口依子が出ていたのだった。ここで洞口氏は、大御所である品田氏を前にして、あなた一体何様?、というくらいにおもいっきり生意気な発言をかましていて、その(『ドレミファ娘の血は騒ぐ』のイメージとは全然違う)不遜な態度が、痛さとギリギリ紙一重ですごくかっこよくて、印象に残っているのだった。(後に『勝手にしやがれ』シリーズのキャラにつながってゆくようなものが垣間見えたのだった。)「イメージフォーラム」に連載されていた万田邦敏のエッセイに、洞口依子が撮影所で『シネマの記憶装置』を読んでいるところを目撃したという複数の証言がある、というようなことが書かれていて、それを読んだ時はてっきりネタだと思っていたのだが、この放送を観て、あれは本当の話だったんだ、と思ったのだった。当時はそんな言葉はなかったのだが、今思えば、その時にぼくが感じた感情はまさに、「萌え」というものだったのだろう。