朝から雨。朝から降りつづける雨のなかで、何かとバタバタとせわしなく動き廻る。あわただしい。まるでカサヴェテスの『こわれゆく女』のオープニングみたいな感じで、雨に濡れて右往左往しながらの作業。青い雨ガッパなんか着て。
あわただしい、ということはともかく、もう決して寒いという陽気ではないので、春の雨を浴びてびしょ濡れになることは、嫌なことではない。むしろ気持ちがいいくらい。身体を動かすのも心地よい感じ。動くたびにガサガサと大きな音をたてる雨ガッパ。水たまりにハマってしまって、水を跳ね上げる。襟から雨が入って、背中をつたう。髪の毛が額に貼り付く。走り抜ける自動車が飛ばした飛沫を避ける。細かい雨がびっしりと隙間なく落ちている。ぴちぴち、ちゃぷちゃぷ、らんらんらん。
雨曝しになっていたのは、ほんの1時間ちょっとくらいなのだけど、その他にも今日は、いろいろな用事で1日じゅう駆けずり回っていた。さすがにクタクタ。
雨上がりの夜。重く空を覆った雲が、地上からの光によってぼんやりオレンジ色に発光している。チャリンコを立ち漕ぎして、小高い丘の上までゆく。高いところから、新宿方向を見下ろす。こちら側(丘の上)は、小さな街灯ひとつの薄暗い雑木林だけど、向こう側(見下ろしている街)は、眩いばかりにキラキラした光の粒が、ずーっと遠くまでびっしりと拡がっている。まっすぐに伸びている線路に、電車の窓からの光がゆっくりと動いてゆく。蛇行してずっと続く道路には、沢山のヘッドライトの光ががずっと繋がっていて、ちかちかと点滅しながら移動している。高くそそり立つマンションの窓の灯は、その一つ一つの部屋によって、微妙に色や濃淡が違っている。
遠くにいくにしたがって、街の灯りは、かなり濃く漂っている白い靄に覆われて、具体性のない抽象的な、点滅する電気信号のように見える。適度に湿った空気。湿った夜の植物の匂い。足元の土も湿っていて、歩くと靴の裏に貼り付いて、にちゃにちゃ音をたてる。木の上から、いきなり三毛猫が飛び下りてきて、びっくりする。
長くつづくゆるやかな坂をチャリンコで下る。キリキリキリキリーッというチェーンの音。ギアの調子が悪くて、漕ぐ時、時々空回りするので、カクッとつんのめるような感じになる。
街灯の下にある、枯れて干涸びた何本かの老木の乾いた茶色が、暗いなかそこだけくっきりと、暴きたてられるように浮かび上がって見える。痛々しさ・・。
コンクリート打ちっぱなしの壁は気候の影響を受けやすい。湿った雨上がりの日は、手で触ると水分を含んで重くしっとりとした感じが手先の触覚から伝わってくる。