●用を済ませてトイレのドアを開くとセミの声が耳に刺さり、それは部屋のなかとしか思えない近い位置から聞こえている。手を伸ばせば届きそうだという位置であるように感じる。セミが部屋に入り込んだのだろうか。だけど、首を左右に振り、耳を澄ませて位置を特定しようとすると、声は曖昧に散って、方向がつかめなくなり、すうっと窓の外にまで後退していってしまう。開け放した窓の外からセミの大合唱が聞こえるというありきたりな光景-音響へと着地する。それにしても今日のセミの声はすごかった。