2021-10-23

●おしらせ。noteのVECTIONアカウントに、「上手くいっている時には注目されずに失敗した時だけ叩かれる」をアップしました。

https://note.com/vection/n/n63736a9944b8

●一日のやるべきことがとりあえずは終わり、風呂に入って、あとはもう寝るだけという時に、焼酎を飲みながらぼんやりと観るものとして、「やまと尼寺 精進日記」以上のものはない。おんなじ回を何度でもみられる。人里離れた山奥にある(ふたりの僧侶とひとりのお手伝いの人しかいない)尼寺の生活が、こんなにも享楽的なもので満ちているとは。

2021-10-22

●『ロル・V・シュタインの歓喜』(マルグリット・デュラス)についての講義で、精神分析的な用語を用いずに、精神分析的な考え方を導くにはどうしたらいいのか考えている。精神分析の理論を用いて小説を解読するのではなく、小説のなかから精神分析的な考え方がたちあがってくるのを、あくまで小説の形、小説の流れに沿った形で、小説の言葉を用いて掴み出したい。

(デュラスがラカンの影響下で書いたのではなく、ラカンがデュラスの影響を受けたのだ。)

2021-10-21

●ロベルト・ムージルの「トンカ」。この、難解でゴツゴツとした小説を、講義のために必死で噛み砕いてみるのだが、噛み砕いてみると、予想以上に筋が通っているというか、論理的な整合性に従った展開がされているのだと、今回、はじめて感じる事ができた。

(非論理的なものにかんする、きわめて論理的なアプローチがなされているように思う。)

ただ、噛み砕くとは言っても、あくまで日本語訳を噛み砕いているのであって、この噛み砕きは、翻訳の正確さや精度に依存しているのたけど。外国語で書かれた小説(翻訳)を読み込んでいく時、いつもこの問題にぶち当たるのだが、語学の出来ない者としては、とりあえずは「ここに書かれている日本語訳」を信頼して深掘りしていくしかない。

2021-10-19

●「豪の部屋」の佐佐木一心ゲスト回を観ていて思ったのだが、17歳の女性アイドルと二人きりで、フラットな立場で(お父さんポジション、先生ポジション、上司ポジションに立たなくて、勿論オタクポジションでもない)、二時間の対話ががっつり成立する50歳すぎのおじさんというのは、日本じゅう探しても吉田豪くらいしかいないのではないか。バラエティ番組的な面白話ではなく、普通の話ができて、そこから自然に、相手のキャラクターや、興味深いエピソードが引き出されている。少なくともアイドル業界では、本当に唯一無二の存在なのだな、と。

(若い女性でも、自己主張の強めのアーティスト的な人となら対等な対話を成立させやすいとも思うのだが、ほわほわっとした感じのアイドルの話を---その「ほわほわさ」を面白がるのではなく---「ちゃんと聞いて、ちゃんと返す」というのは「おじさん」という位置の人にとってはとても難しいことのように思う。)

(吉田豪と若いアイドルとの対話は、しばしばカウンセリングモードになると言われるが、カウンセリングモードの対話であれば---それがお説教モードに入ってしまうことを避けるだけの節度をもつ---ある程度立派な年長者なら可能だろうと思う。しかし、「特になんということもない普通の話」を成立させられることが、驚くべきことなのではないか。)

●「火曜TheNIGHT」の「一瞬しかない」ゲスト回。一瞬しかないは、はじめて観たけど、とても面白かった。わら人形の人とか、元フレンチ料理人の人とか、宇宙倫理学に興味をもってNASAに留学した人とか、バックグラウンドの厚みもすごく感じる。「モテすぎたなあと思ってやめました」と言う元フレンチ料理人の人とか、男の多い世界で過去に男女関係で辛い事情があったっぽい感じを漂わせていて、うーん、大変だった末の今なのだろうなあ、となる。

メジャーなシーンでは決して成立しないことが成立するのがライブアイドルの良さだと思う。ライブアイドルは、それを見る目があらかじめ肯定的なものであるという前提によって成り立っている。その視線は、欠点を厳しく指摘する視線ではなく、親戚の子供の運動会を見るような視線であり、出来れば出来たでうれしいが、出来なかったとしてもそれはそれでその人の固有性の表れの一つだ、というように見る目だ(強調したいのだが、これは「上から目線」とは違う)。

「隙の無い完璧な完成度を求める(完璧なのものに驚嘆させられることを求める)目」の前では決して起らないことが、そのような「緩く肯定的な目」の前では起る。「緩く肯定的な目」の前でのみ起るような出来事こそが、この世界の驚嘆すべき一面を顕わにする、のではないか。厳しく客観的な目の前では、世界は法則に従い、奇跡は稀にしか起らないが、緩く肯定的な目の前では、奇跡はだだ漏れになる、とか。

ただ、この回のMCは、アイドルという形態の究極形と言われるほどの完成度を誇った元℃-ute中島早貴だった。「厳しく客観的な目」の前で長くしのぎを削ってきた彼女が、ライブアイドル的な緩さをどう感じるのだろうか。

2021-10-18

ヴァージニア・ウルフの『灯台へ』(鴻巣友季子・訳)の第一部のクライマックスとも言える一堂が会するディナーの場面で、ウィリアム・バンクスという植物学者の男が、義務的な社交の場に倦んで、こんなことは時間の無駄ですぐにでも自分の仕事に戻りたいと思いながら、しかし表面上はあくまで場にふさわしく振る舞いながら、ふと手持ち無沙汰になって自分の左手を眺める描写。

《まあ、要するにあれだな。ウィリアム・バンクスは隙のない礼儀は少しもくずさぬまま、ただテーブルクロスの上に左手の指を広げ、いつでも使えるようきれいに磨きあげられた工具を技師がひまを見て点検しているかのように眺め、こう思うのだった。》

自分の左手の指を、磨き上げられた工具を見る技師のように眺めるという、常識的に考えれば軽い離人感のようなものを表現しているだろうこの描写を読んで、おもわず小鷹研究室の「あれ」を思い出してしまうのだった。

XRAYSCOPE(XR CREATIVE AWARD 2021)|小鷹研究室

https://www.youtube.com/watch?v=SHEJnlU9sCM

●『灯台へ』の心理描写は、いわゆる「心理描写」とは全然違っているところが面白い。ディナーの中心にいるラムジー夫人が、ふと《自分は夫に心酔している》のだということに気づき、《夫を讃えているのはほかならぬ自分》であるのに、夫のことを《人から褒めてもらった》ように頬を赤らめるという描写(エッシャーの、描き、かつ、描かれる手のような、自分内ループによって生まれる感情)。

《あの人が口をひらくと、すっかりムードが変わるのに。あの人がなにか言うと、「どうか、無関心なわたしの心のうちを見透かされませんように」なんて、みんな思わなくなるのに。だって自然と関心が湧いてくるんですもの。夫人はここで、やはり自分は夫に心酔しているから話しだすのが待ち遠しいのだと気づき、自分の伴侶や結婚を人から褒めてもらったような気がして、頬を紅潮させるのだった。夫を讃えているのはほかならぬ自分だということは考えもせずに。》

しかしこの後、ラムジー夫人が《威容の表れた顔》を期待して夫を見ると、夫は、ごく些細でくだらないことで猿のように怒っていたのだった、というオチがつく。

2021-10-17

●お知らせ。noteのVECTIONアカウントに、「社会的シンギュラリティ、センサー計画経済、権力分立の未来」をアップしました。

https://note.com/vection/n/n71e7e6809d37

英語版、「Social Singularity, Sensor Planned Economy, and the Future of Power Division / The End of the Market and the New Planned Economy」。

https://vection.medium.com/social-singularity-sensor-planned-economy-and-the-future-of-power-division-46ccca33dccb

また、先にアップしたnoteの記事「技術で香港の苦痛を表現する/リンゴ日報 ブロックチェーン その先」の英語版をMirrorに投稿しました。そしてこの記事は、記事内で言及されているArweaveにアップロードされてもいます。

《(…)Arweaveというブロックチェーン上に、リンゴ日報の記事が次々とアップロードされている。

これは、データを特定の管理者(企業など)を必要とせず、「分散的」かつ「永久」に保存できるストレージ・サービスで、創設者は世界中の価値ある情報を管理主体なしに永久保存すること、(管理者のいない「アレクサンドリア図書館」の実現)を目標に掲げている。

香港政府は違法行為を煽る可能性のあるウェブサイトを削除する権限をもつのだが、この技術を用いた記事には手を出すことが出来ない(訴える相手がいない・そもそも消す技術的手段が無い、ため)。》

https://mirror.xyz/0x8B754F13f971A59fa05d1B5EA7830860c7C110af/70eGj0cjcmRsQGDM8aNv-U67frmMuNu8XPS5Fy-PwkU

Mirrorとは?

https://dev.mirror.xyz/valptw8S9eZ1cvzX-JCGga2N_W2hXyurSYbOlNFj4OQ

追記。Mirror内の検索。

https://askmirror.xyz/