2023/10/18

⚫︎『空の青さを知る人よ』をU-NEXTで観た。なんとなく観たのだけど素晴らしかった。途中から、ほとんどずっと半泣きみたい感じだった。岡田麿里長井龍雪田中将賀の作品は、「あのはな」がどうしても受け入れ難いので避けてきたが、これは素晴らしかった。

日本のアニメの枠組みではどうしても少年少女が中心とならざるを得ず、少年少女を中心に置いて、かつ、大人の事情を描こうとすると、どうしても過去に重きを置いたノスタルジーモードに染まってしまって、ぼくにはそれが受け入れ難いのだが、この作品では、少女を中心としつつ、同時に、過去ではなくあくまで「大人の現在」に方に軸を置いて描こうとするために、時空構造に捩れが加えられる。「大人になったわたし」が、「若いままのわたしの友人」の幽霊に出会うという形で「現在」と「過去」とを付き合わせると、どうしても過去を特権視するノスタルジーモードになってしまうのだが、そうではなく「今、若いわたしの妹」と「若いままのわたしの友人」の幽霊を出会わせることで、過去と現在を対比的に捉えつつも、軸はあくまで現代にあることになる。

「妹(現在)」は「わたし(過去)」と同年齢であり、「わたし(過去)と同年代の妹(現在)」が「友人(過去)」と出会い、もう一方で同時に「わたし(現在)」と「友人(現在)」が出会う。過去と向き合うのは「わたし」ではなく「過去のわたしと同年代の妹」であり、だが、妹と「過去=友人」との出会いは、あくまで現在の出来事である。わたしは、一方で「現在の友人」と出会い、他方で「妹の現在」を通じて「過去の友人」と出会うことになる。

この作品で起きている主要な出来事は、大人になった「わたし(姉)」と「友人」とが、それぞれに、それぞれの過去と出会い直し、それによって、大人になった「現在の二人」として改めて出会い直すという出来事だが、その出来事は「妹の現在の出来事」を媒介として起こり、媒介者である妹こそがこの作品の中心に置かれる。それにより、「過去との出会い直し」があくまで「現在の出来事」として立ち上がる。過去は特権的なものというよりむしろ現在からの距離によって相対化されるが、しかしそれは「過去そのままの回帰=幽霊」としても立ち現れているために、現在の都合で矮小化されることもない。このような発明が、この作品を良いものにしていると思う。

⚫︎「井の中の蛙大海を知らず、されど空の青さを知る」、このなんとも鮮やかなフレーズを思いついたのは脚本の岡田麿里なのだろうか。ありふれた諺に、ほんの一節付け加えるだけで、ボルヘス的、というか、熊谷守一的な空間の反転が起こる。狭さ/広さという(それ自体がなんとも窮屈な)二項対立的空間構造が「空の青さ」という底なしの深さによって底が抜ける。追記。これは村上春樹的な「井戸=深さ」(このイメージは紋切り型だ)に対する批判的反転とも言える。

⚫︎ただ、エンドクレジットで二人の結婚を匂わせているところには疑問を感じた。そんな「結論」は見せなくていいのではないかと思った。