●帝国ホテルで野間文芸賞の贈呈式があったのだけど(という風に書くとあたかもぼくが受賞したかのように読める)、ああ、帝国ホテルって「それ」なのかと初めて知った。帝国ホテルという名前や存在は勿論知っていた。そして、あの場所にああいう建物が建っているのも知っていた。銀座に近いし、わりと馴染みのある地域ではあるから。でも、そこにあるそのデカい建物が何なのかを気にしたことはなかった。建物の感じや雰囲気からいって自分とはまったく関係のない何かだと思っていたから関心を向けたこともなくスルーしていた。見ると確かに帝国ホテルと書いてある。ああ、これがあれだったのか、と思った。関心がないというのは、そういうことのなか、とも思った。あと、どこから入ればいいのか、入口がなかなか分からなかった。
●出かける時、近くのバス停からバスに乗って、すいていたので一番後ろの一段高くなったイスに座ると、一呼吸後に、尻のあたりにじわじわっと濡れたような気持ちの悪い感じがしてきて、なんだと思って腰を上げると、飲み物がシートに零れていた。薄い汚れのようなものには気づいていたのだけど、もともと古ぼけたシートだったのでシミくらいあるだろうと気にしなかったら、そこには液体がたっぷり含まれていたのだった。濡れたズボンの尻の部分に触れてみたら、ベタベタする液体で、砂糖とミルクがたっぷり入っているような過剰に甘ったるい匂いがして、さらに不快感が増した。バスのシートに飲み物を零してそのままふき取ることもしないのは、軽いテロみたいなものだなあと思った。まあ、たんにぼくの不注意だとも言えるけど(「シミ」には気づいていたんだから避けるか確かめるかすればよいのだ!)。匿名の悪意のようなもの(いや、悪意とさえ言えない、もっと微弱なもので、しかし嫌な感じのするもの)に偶発的に触れてしまったような感じはある。
(ズボンのシミも、乾いたらほとんど見えないくらいになったので、その後の行動に特に支障はなかったのでよかった。)