2020-01-12

●ひたすら「新人小説月評」の対象作品を読んでいる。それが良いものであろうと、悪いものであろうと、それぞれの作品(作家)にはそれぞれに個別性があり、その個別性をちゃんと受け止めようとするのは、思っていたよりも大変なことだということが分かった。誇張した言い方になるが、たとえ字数が少なく、一篇の小説に対してわずかなことしか書けないとしても、十本の小説を評するためには、十冊分の書評を書くのと同じくらいの頭を使う必要があり、その上で、それを凝縮したり、短く切り詰めたり、あるいは(あえて)切り捨てたりするしかないみたいだ。

(いっぺんにたくさん読むと、個々の小説についての記憶の解像度が下がってしまう---細かいところを忘れてしまう---ので、また読み直したりする必要もでてくる。)

小島信夫が、「人は選考委員になると、まるで選考委員のように小説を読むようになるからつまらない」と言っていたと保坂さんから聞いたことがある。選考委員のような権威も権力もないが、「まるで評者であるかのように小説を読む」ことは避けなければならないと思っている。