ある日のこと。

●いくつも団地が建ち並ぶなかに、ポツンとそこだけ放置されてある空き地。(こんもりと、かなり高く盛り土がしてあって、雑草が茂っている。年に何度か業者がはいって、チェーンソーみたいな道具をうならせて、青臭いにおいをまき散らして、草を刈るのたけど、すぐにまた元通りになってしまう。)その、青々と生い茂る雑草から、雑草よりも背の高いススキが、ニョキニョキと伸びているのが目立つようになった。ススキはみっしりと密集している雑草の間からすっくりと伸びて頭を出し、その白い穂をつけた頭を重そうに軽くしならせている。キリ、キリ、キリ、キリ、キリ、キリ、チチチチチ、リー、リー。その前の道を通り抜けながら、三種類の違った虫の声を聞き分けた。(夜になるともっと種類が増え、音ももっと大きくなる。)

●夜おそく、人も車もほとんど通っていない、その空き地の近くの道路を自転車ではしっていたら、猫よりもずっと小刻みでぎこちない動きの小動物が歩道から飛び出して、目の前を横切った。アスファルトの上を走るのに慣れていないような走り方と足音。狸だった。