2002/01/05

●実家のすぐ近くには川が流れていて、川沿いの道を3~40分歩いて下ってゆくと海に行き着く。真っ青な空の色を反映した川の水面も真っ青で、よく見るとその青の下から濃いエメラルドグリーンの層が透けて見えることで、水の厚みを感じる。川やそのまわりの風景は、橋を一本通り越す度に、大きく表情をかえる。川原に小さな畑がポツポツと、幾つもつくられている地帯がある。河川は、市が管理している土地だから、ここで耕作することを禁ずる、ここの耕作物は強制的に撤去する場合がある、と書かれた看板の前にも、堂々と畑がつくってあって、オッサンが作物に水をやっている。2本の川が交わる交点の、半島のように突き出た先っぽのススキの茂みの間から、猫がちょこんと顔をだしている。そこに生えている、ゴツゴツした枝が蜘蛛の巣みたいに広がっている木には、カラスの群れが黒々と見えている。川はゆるやかに蛇行しながら流れているのだけど、その先の橋からしばらくの間は、川の両側が鋪装されて、川も川沿いの道もずっとまっすぐにのびている。まっすぐの川の脇には、ずらっと桜の木が並んでいる。高校の頃、毎朝この下を自転車で走り抜けていたのだが、上からポタポタと、よく毛虫が落下してきたものだった。高麗山と呼ばれる、山と言うより人工的な塚のようにも見えるこんもりした山の脇を抜ける頃には、川は鋪装もなくなり、川幅がぐんと広くなって、いよいよ河口という雰囲気になってくる。ずっと、やや高い位置につづいていた川沿いの道は、ここで一旦川原と同じ高さになる。釣りをしている親子がいて、その釣りのエサを散歩につれられてきた犬が目をつけてクンクンとしきりに匂いをかいでおり、飼い主が、それはお前のエサじゃないよ、ほら、行くぞ、おい、と声をかけていた。次の橋は鉄道の鉄橋で、それをくぐって抜けると川幅も川原もさらに平べったく広がり、流れが緩やかになったせいか、川の表面も滑らかな平らになったように思える。ここから先では、白い水鳥がところどころで群れをつくってかたまっている。群れのなかの1羽が、水面に線を引くように、片足をギリギリ水面に接したままで、川を縦に切り裂くように低い位置を飛んでみせると、水に浮かんだまま休んでいた他の鳥たちも、やや遅れてバラバラと飛び立ち、やがて一塊の群れが空を旋回して、しばらくするとまた水面に浮かんで休んでいるのだった。あと橋を2本抜けるともう海で、最後の橋とその1本手前の橋との間の川の表情は、わずかにS字にカーブしていて、川と言うよりほとんど貯水地のように見えるくらいに静かな佇まいで、水面にも乱れがなくて磨いた鏡面のように空の色を反射していて、水もほとんど流れてはいないように見えるのだが、よく見ると川に落ちた枯れ草などがかなりのスピードで流れてゆくのが分るのだった。最後の橋の手前に着く頃にはもう、視界の先にはわずかに海が見えているし、潮の香も漂ってくる。ずっと川を見ていて、最初に海が目に入った時には、急に何か果てしのない、底なしのものに触れてしまったような、ちょっと恐ろしいような軽いショックを受ける。遠くの方で波がザワザワと動いているのにつられて、こちらの胸の辺りも、ザワザワと揺さぶられる感じだ。このあたりの海岸は砂浜が広くとってあって、砂浜に出てから波打ち際に行き着くまで砂に足をとられながら随分と歩く。川は、海へ出る前に一旦大きく膨れて砂浜に溜まりのようなものをつくり、海と接している部分は、あんなに川幅が広くて水量がある川にしては全く不釣り合いな狭さで、ちょっと大げさに言えば、勢いをつけて飛べば、飛び越えることができてしまうのではないかかと思えるくらいで、ほんの数メートルの幅しかないのだった。細く尖った針みたいな先端だけで、川は海と接しているのだった。打ち寄せてくる波を切り込むようにして、水は海へと流れ込んでいる。