●自転車で隣の駅まで行くと、行きはゆるやかな下り坂がつづき、帰りは軽い上り坂が続く。これは自転車を漕ぐペダルの重さによってはじめて意識されるもので、歩いているだけでは気づかないくらいの微かなものなのだが。さらに、最寄りの駅からぼくの住んでいるアパートまでは、歩きでも充分に意識出来るくらいのゆるい上り坂になっている。つまりぼくの住んでいるあたりは、周囲に比べて標高がやや高い。さらに、きわめて無計画な開発によって広がっていったとしか思えない迷路のような細い道が錯綜する住宅街が延々と続き、個人の持ち家と小さなアパートばかりがコマゴマとどこまでも広がっていて、大規模なマンションのような背の高い建築物がない。そのせいで、(今日のように梅雨入り前の五月の気持ちよく晴れた日は特にそうなのだが)「空がでかい」という印象がある。ぽかんと時間が空き、外があまりにも良く晴れているので、午前中からふらふらと散歩してみる。なにしろ迷路のようになっているので、アパートのすぐ近くなのに、それがどこに通じているのか分からない小道が結構あり、入り込んでみるとくねくねと蛇行したあげく行き止まりで、個人の家の庭先に繋がっていたりして、しばしばそのまま戻ることになる。多くの家々のベランダには洗濯物や布団が干されていて、それが眩しく光りを撥ね返している。真っ青な空を背景にして建っている家の、ベランダのある二階部分のガラス戸には、その反対側の空と雲が反映している。
●自転車の後輪がパンクしてしまった。パンクを修理する道具を売っている店は、自転車に乗ってゆかないと不便な距離にあるのだった。