黒沢清『蟲たちの家』をDVDで観た。以前、黒沢清が映画にする、ということを聞いた後に、楳図かずおによる原作を読んだのだが、その時、これは楳図かずおの作品としては充分成り立っているけど、これを映画にするとしたら、よほどの「何か」を新たに付け加えない限り(あるいは全く別ものに書き換えてしまわない限り)、映画として面白いものには成り様がないのではないかと思った。夫婦双方の主観が食い違う、というありきたりの展開は、楳図かずおという特別な独自性を持った作家が描くからこそ通俗的なものに落ち込まずに強さを持った「作品」となるのであって、その基本設定をそのままなぞるとすれば、いくら黒沢清による演出が見事に冴えていたとしても(黒沢的なものが多々みられたとしても)、作品としては、楳図かずおの「原作」を「映画化」した、という以上のものには成り様がない。と。そしてまさに、そのような映画でしかなかった。(つまり、黒沢清楳図かずおに完全に負けている。)あと、黒沢清の凄いところの一つに、どう考えてもミスキャスト(と言うか、このキャスティングはどうなの?、というようなキャスティング)としか思えないなかで、まさにそのキャスティングでしかあり得ない「何か」を平然と成立させてしまう、ということが挙げられると思うのだが、この映画の緒川たまきは、あまりにもハマり過ぎているがゆえに「型通り」でしかなく、まったく面白くない。
●ぼくは、黒沢清の割合肩の力の抜けた(それほど「本気」ではないような、と言うか、「作品化」への意思がそれ程強く作用していないような、散漫な感じのする)短編が凄く好きで、黒沢清の最高傑作は『花子さん』(http://www008.upp.so-net.ne.jp/wildlife/kurosawa.html#Anchor7312176)ではないかとさえ思っているくらいなので、ちょっと期待が大き過ぎたのかもしれないけど。