●京都で行われる吉田喜重監督の特集上映のパンフレットのための、『美の美』についての原稿を書いていた。だいたいぼくは事前にきっちり計画を立てたり構成を考えたりして文章を書くことが出来ないので、そこから考えが広がっていきそうな感じの書き出しと、茫洋とした行き先の予感のようなものだけを頼りにして、行き当たりばったりに書いて行くしかないのだった。で、この、吉田監督の美術映画についての文章の書き出しは、ルノアールの『ボヴァリー夫人』のあるショットについて書いたもので、しかしこの書き出し部分を書いている時には、これはきっと『美の美』に繋がる(関係がある)はずだという予感はあっても、具体的にはどのように繋がるのかはよく分かっていないのだった。この書き出し部分を書いたのは何日か前で、これならこの先に広がってゆきそうだという感じを得て、それを頭の隅に置いたまま数日寝かせておいて、その間、そこから進み得るいくつかの道筋について出来るだけイメージの「含み」を豊かにしつつ、あまり具体的ではない形で思いをめぐらしていて、書くためのまとまった時間がとれる今日を待って、その続きを書き始める、という具合なのだった。