●早急に書き上げる予定の作家論の構想をずっと考えていた。おそらく、適切な入口さえ見つかれば、ある程度のところまでは一気にいけるはずなのだ。でも、それが見つからないうちに焦って書き出してしまうと、かえって遠回りになる。だから、はやる気持ちを押さえて、じっくりと、入口を探す。で、入口の在処が、なんとなくこの辺りだろうというのは見つかった気がする。これが間違いではありませんように。
●以下、引用。「終の住処」より。すごい。
《近くの林へイグアナを逃がした。おそらくそうなるだろうと思っていた通り、イグアナは急ぐことなく、ゆっくりと四本の足を順々に繰り出しながら、躊躇のかけらも見せずに林のなかへと歩いていった。だがそのときでも私は、そしていま現在に至るまでといっても良いくらいなのだが、いつの日か、あのイグアナはかならず帰ってくると信じている。そのころにはイグアナは巨大に成長して、人間の背丈ほどにもなっていることだろう。そんなに大きくなってしまった動物は他の誰のところへも行くことは許されない。ぜったいに許されない。かならず私のところへ戻ってくるはずなのだ。》
《まったく信じ難いことだったが、彼はこの昔ばなしを自分の娘から聞いているつもりになっていた。生物教師の女がイグアナを飼っていたのと、いまではちょうど同じ年ごろの小学生に育っている自らの娘が、父親である彼に語る話として聞いていたのだ。》