●DVDの返却のために新宿までゆく。昼間なのに、中央線は異様なくらい混んでいた。しかし、新宿で降りて、西口の改札を出ると、今まで何度となく西口の地下を通ったけど、こんなに人がいないのははじめてだ、というくらい人がいなかった。まったく違う出口から出てしまったかのようだった。自分の進むべき方向さえ分からなくなって、うろうろしてしまうくらいだった。
地元にもどって、喫茶店でずっと小説を読んでいた。喫茶店にいる間、テーブルからコップが落ちて割れる音を二度も聞いた。一度目はまただ明るいうちで、二度目はもう閉店時間に近かった。一度目は、ガチャンと音がしてそっちを見ると、気の弱そうな青年が立ち上がってカウンターの方へ歩いてゆき、「あのー、コップ割っちゃったんですけど」と言った。二度目は、コップが落下する瞬間を見た。六人くらいのおばちゃんたちの集団が店に入って来て、店のなかの雰囲気が一瞬にしてかわった。うるせえなあという感じてそちらに視線を向けると、椅子につこうとしたおばちゃんの持っているバッグが、ナプキンやスティック型の砂糖の立ててあるコップにひっかかってテープルの上を滑り、コップは床に落下し、カチャンという音を立てて砕けた。ナプキンや砂糖のスティックが床に散らばった。おばちゃんは、それを片付けるためにやってきた店員に、「ごめんなさいねー、弁償するわー」と何度も繰り返し言っていた。ぜってー弁償する気なんてねーに決まっている、という口調で、何度も何度も「弁償するわー」と言っていた。酒を飲んできた帰りみたいだった。
閉店時間が近づき、小説はあと数ページを残すくらいになった。しかし、ここで時間に追われるようにして駆け足で一気に読んでしまうべきではないと思った。数ページを残して読むのをやめて、紙の束を鞄にしまって立ち上がり、会計を済ませて外へ出た。終盤の急展開に驚き、これは一体どこにたどり着いて終わるだろうと思いつつ、深夜の駅前を歩き、線路を越え、駅前のスーパーで食料を買って帰った。部屋に戻ると十二時ちかくで、食事をしたら眠くなって、そのまま寝てしまった。だからまだ最後の数ページは読んでいない。