●綿のように軽い一枚の羽根が、高いところからゆっくりと落下してくる。くるくるとうずまき状の緩慢な弧を描きながら。少しの空気の流れにも影響されてしまいそうたが、まったくの無風なのでその軌道が揺らぐことはない。その羽根が地面近くにまで降りてきて、溜まり水の上にふわっと着水する。波紋さえたたない。そのかすかな接触の衝撃が、こころのどこか一点で起こり、それがざわめきとなってひろがり、ふと、目が覚めてしまう。このようなかすかな衝撃、かすかなざわめきこそが、もっとも吸収されにくく、処理し難い。アパートの前の道路工事による騒音や振動であるならば、うまくすれば、そのなかでも再び眠ることができる。そのくらいの無神経さは身に着けている。しかし、あるのかないのかわからないかすかなざわめきは誤魔化しようがなく、それが起ってしまえばもうあきらめるしかない。このざわめきには、その先が永遠につながっているかのようなとりとめのない恐怖が含まれている。