●小説の校正刷りに手を入れていた。この、一万四千字とちょっとの短い小説に、この一年以上延々と手を入れ続けていることになる。去年の二月にほぼ一か月で第一稿を書いて、その後ずっと直している(勿論、そればっかりやっているわけではないし、毎日やっているというわけでもなく、まったく忘れている時期もあるのだけど)。主に直しているのは「文」で、これはちょうど、一か月で撮影したフィルムを、十一か月かけて編集しているような感じだと思う。例えば、≪呼び鈴が鳴ったのでドアを開けると恋人が立っている≫というのを、《呼び鈴が鳴って、ドアを開けると恋人が立っている》に変えるとか、《知らぬ間にバケツの水が上に移動していた》を、《知らぬ間に上のバケツに水が移動していた》に変えるとか。これを延々やっているはずなのに、この段階でもまだ「手癖」で書いてしまっている文が発見されたりする。これは、この部分だけ取り出してみると大した違いではないけど、全体のなかのどの位置に置かれているかとか、その前とその後につながる流れだとかによって、意味をもってくるように思う。逆に言えば、全体のなかの位置やつながりを意識しないで「その部分」だけを直そうとすると、どうでもいいような枝葉末節にこだわるという間違いに陥る危険が大きい。
これはだから、あるカットをどこではじめてどこで切るのか、それを次のカットのどこにつなげるのか、あるいは、カメラがどのタイミングでどっちに動くのか、というようなことを試しながら、自分なりの「小説として」の呼吸やリズムや調子を探してゆくような感じだと思う。ぼくはまだまだ「そういう段階」で、小説を書く体が出来ていないのでフォームをビデオでチェックしながらバットを振っていると言うか、そうやって少しずつ小説の感覚に近づこうとしている感じだと思う。そして、前の小説より少しは近づけた感じはしている。
●タイトルは、「ライオンと無限ホチキス」にしようと思います。来月出る文芸誌に載る予定です。