●図書館で借りてきた本を読んでいたら、鉛筆で誤植が指摘されてあって、そこから欄外の余白に矢印がのびて、「2008年7月20日午後0時28分」と、おそらくそれを発見したのであろう日時が書き込まれていた。
●引用、メモ。『ワープする宇宙』(リサ・ランドール)より。アインシュタインによって記述された「重力」について。
アインシュタイン一般相対性理論では、重力の力は時空の曲率と解釈され、その曲率は、そこに存在する物質とエネルギーによって決まる。》
●曲率とは?。正の曲率、ゼロの曲率、負の曲率
《平面上の三角形の内角の和は、つねにきっちり一八〇度だ。しかし、球面上の三角形はどうだろう。一つの頂点を北極に置き、あとの二つを赤道上に、赤道一周分の四分の一の距離を離して置いてみる。この三角形の内角は、それぞれぴったり九0度だ。したがって、三角形の内角の和は二七〇度となる。これは平面上ではありえないが、正曲率の面の上では、面が膨れているために三角形の内角の和がかならず一八〇度より大きくなる。
同様に、(馬の鞍のような形の)双曲放物面上に描かれた三角形の内角の和は、この面の曲率が負であるために、つねに一八〇度より小さくなる。これは前の二つよりすこしわかりにくい。鞍のいちばん高い部分の近くに二つの頂点を置き、双曲放物面の低い部分の片側を下って、馬に乗ったときに足を置くあたりにもう一つの頂点を置く。この最後の内角は、面が平らであった場合の角度よりも小さくなる。したがって、内角の和は一八〇度より小さくなる。》
●時空、時空構造について。
《ここから先は、ほぼ例外なく空間と時間をあわせて考えてゆくので、空間という概念よりも「時空」という概念を使ったほうが有益だろう。時空は空間よりも次元の数が一つ多い。「上下」「左右」「前後」に加えて、時間を含めたのが時空である。一九〇八年、数学者のヘルマン・ミンコフスキーは幾何学の考えを使って、この絶対時空構造の概念を構築した。アインシュタインが基準系に依存する時間と空間の座標を使って時空を研究したのに対し、ミンコフスキーは観測者とかかわりのない時空構造を特定し、それによって任意の物理状況を記述できるようにした。》
《時空構造というのは非常に重要な概念である。これは、エネルギーと物質のある特定の分布によって生じる重力場に対する幾何を正確に描写するものだ。しかし、アインシュタインは当初この考え方を嫌っていた。自分がすでに説明した物理を、過度に凝った方法で定式化しなおしているように思えたのだ。》
《非ユークリッド幾何学に抵抗を感じたのはアインシュタインだけではなかった。スイスの数学者でアインシュタインの友人だったマルセル・グロスマンも、非ユークリッド幾何学は必要以上に複雑だと思い、これを使うのをやめるようにとアインシュタインに進言した。しかし結局は二人とも、非ユークリッド幾何学を使って時空構造を表現するのが重力をすんなりと説明できる唯一の方法だと結論した。》
●測地線、自由落下、重力。
《平坦な空間では、二つの点のあいだの最短距離、いわゆる「測地線」は直線となる。曲がった空間でも、やはり測地線は二点の最短距離と定義できるが、その経路は必ずしも直線にみえない。》
《曲がった四次元時空でも、測地線は定義できる。時間的に離れた二つの事象があるとして、一つの事象ともう一つの事象を結びつけるのに時空のなかで自然にとられる経路が測地線である。アインシュタインは自由落下---最も抵抗のない経路---が時空の測地線に沿った運動であると気づいた。したがって外部の力が存在しない場合、落とされた物体は測地線に沿って落下すると結論した。》
《(…)ものが測地線に沿って時空を進み、外部の力がいっさい働いていない場合でも、重力は明らかな効果を及ぼしている。(…)これを受けて、アインシュタインはこう考えた。重力によって生じる加速がどんな質量に対しても局所的に等しいのだから、重力は時空そのものの特性でなければならない。それは「自由落下」が違う場所では違う内容になるからで、重力は単一の加速度に局所的にしか置き換えられない。(…)自由落下の方向がすべての場所で同じにならないということは、時空が曲がっている証拠だ。》
●質量、エネルギーと重力。図入り。
一般相対性理論ニュートンの重力理論よりはるか先を行っているのは、これを使えばエネルギーと質量の分布がどのようなものであっても、その相対的な重力場を計算できるからだ。(…)当時の物理学者は、物体が重力場にどう反応するか知っていたが、そもそも重力が何であるかを知らなかった。しかし一般相対性理論によって、重力場は物質とエネルギーによって生じた時空構造の歪みであるとわかった。》




《物質とエネルギーがどのように時空構造を歪めて重力場を生み出しているかを示すには、絵で説明するのがいちばんだろう。図39は、空間のなかに球状の物質があるところを示している。球のまわりの空間は歪められている。球によって空間の表面が落ち込んでおり、その落ち込みの深さが球の質量やエネルギーを表している。この近くにボールが転がってくると、ボールは中央の沈下した部分、つまり質量があるところに向かってすすむ。》
《図39は、ともすると誤解を与えかねないので、いくつか但し書きをしておこう。第一に、この図では球のまわりの空間が二次元になっている。しかし実際には、空間は三次元で、時空で考えれば四次元であり、そのすべてが歪曲させられている。時間にしても、特殊相対性理論一般相対性理論の視点から見ればこれもまた一つの次元なので、やはり歪められている。まえに特殊相対性理論を見たときに、時計が場所によって異なる時間の刻み方をすることを説明したが、そういう現象を時間の歪みという。二つめに注意しておいてほしいのは、もともとの球のまわりの湾曲した幾何構造に転がってきた二つ目のボールも、やはり時空の幾何に影響を及ぼすということだ。ここではそのボールの質量が最初にあった球の質量よりずっと小さいと仮定して、そのわずかな影響を無視している。そして三つめに重要なのは、時空を歪めている物体が何次元でもありうるということだ。》
《しかし、いずれにしても時空がどう曲がるかを決めるのは物質であり、物質がどう運動するかを決めるのは時空である。曲げられた時空は測地線を歪め、外部の力がないかぎり、すべては自動的にその経路を進む。重力は時空の幾何によって表現される。》
●そして…。
《このあと見るように、ひょっとしたら私たちは歪曲した五次元世界に住んでいるのかもしれない。幸い、そうした可能性の帰結は一般相対性理論から計算できる。正の曲率、ゼロの曲率、負の曲率をもった二次元幾何の例があるように、物質とエネルギーの分布のしかたによって、正の曲率、ゼロの曲率、負の曲率をもった四次元幾何の時空もある。あとで宇宙論余剰次元のブレーンについて述べるときも、物質とエネルギーから生じる時空の歪みは---私たちの目に見える宇宙においても、ブレーン上においても、バルク内においても---非常に重要な意味をもつ。この三種類の曲率(正、負、ゼロ)は高次元においても見られる可能性がある。》