●引用、メモ。『ワープする宇宙』(リサ・ランドール)より。媒介としての「重力」。
●例えば、三次元空間を仕切る境界として二次元の壁があるように、より高次元の空間を仕切る境界として、それより次元の低い、例えば三次元の壁のようなものが考えられる。このような壁をブレーンと言い、その壁が含まれるより高次の空間全体をバルクと言う。
《壁と同じように、この種のブレーンも全体の空間より次元の数が少ない。境界はつねに、それが境界をなすものより次元の数が少ないのだ。これは空間の境界についても、パンのかたまりの境界をなしている皮についても等しく言えることだ。あなたの家の壁についても同じである。壁は、その壁に囲まれている部屋より次元の数が少ないではないか。部屋は三次元だが、個々の壁は(厚みを無視すれば)二つの次元にしか広がっていない。》
《ブレーンは空間のどこにも存在すると考えられている。むしろ境界から離れ、空間の内部のどこかにブレーンが存在している可能性もある。境界をなすブレーンがパンのかたまりのふちにある薄い皮のようなものだとすれば、境界をなさないブレーンは、パンのかたまりの内側の一部をなす薄いスライスのようなものだ。こちらのブレーンも、すでに見てきたブレーンと同じく、やはり低次元の物体である。しかし境界をなさないブレーンは、その両側に高次元のバルク空間を伴っている。》
●我々の世界がもし、高次元のバルク空間のなかにある三次元ブレーン内にあるとすると、我々は三次元ブレーンに拘束されていて、高次元空間がまわりにあったとしても、それを見ることもそこへ移動することも出来ず、そこから絶対的に切り離されていることになる。
《ワイヤーの電荷も、そろばんの玉も、ともに三次元の世界に住んではいるが、そのうちの一つの次元にしか移動できない。やはりおなじみの例で、二次元にとらわれているものもある。シャワーカーテンについた水滴は、カーテンの二次元の面に沿ってしか移動できない。顕微鏡のスライドにはさまれたバクテリアも、同じく二次元の動きしかできない。》
《シャワーカーテンやロイドの15パズルと同じく、ブレーンも、ものを低次元の面につかまえたまま放さない。つまりブレーンがあると考えると、世界のなかに別の次元があったとしても、すべての物質が自由にどこへでも移動できるわけではない可能性が出てくる。カーテン上の水滴が二次元の面に拘束されているように、粒子やひもも、高次元世界の内部にある三次元ブレーンに閉じこめられているのかもしれない。しかしカーテン上の水滴と違って、こちらは完全にとらわれている。さらに15パズルと違って、ブレーンは恣意的なものではない。こちらは高次元の自然法則にしたがっている。》
《ブレーンに閉じこめられた粒子は、物理法則によって完全にそのブレーンにとらわれている。ブレーンに拘束された物体は、そのブレーンの外に伸びる余剰次元には絶対に飛び出していかない。》
《原則として、ブレーンとバルクの次元の数はいくつにもなりうる。ただし、ブレーンがバルクより多くの次元をもつことは決してない。ブレーンに閉じこめられた粒子が移動できる次元の数が「ブレーンの次元」だ。》
《この宇宙にたくさんの次元があったとしても、私たちにおなじみの粒子や力が三次元ブレーンにとらわれているのなら、次元が三つだけの宇宙にいるのとまったく変わらないふるまいをするだろう。ブレーンに閉じこめられた粒子は、そのブレーンに沿った移動しかしないのである。そして光までもがブレーンに拘束されていたなら、光線もブレーンに沿ってしか広がらない。》
《さらに言えば、ブレーンにとらわれた力は、同じブレーン上に閉じこめられた粒子にしか影響を及ぼさない。私たちを構成している原子核や電子などの物質も、それらの構成単位を相互作用させる電気力などの力も、ともに三次元ブレーンに閉じこめられているのかもしれない。》
●しかし、重力だけは……。
《しかし、力と物質がブレーンに張りついているとしても、すべてのものが一枚のブレーンに閉じ込められているわけではないというところがブレーンワールドの興味深いところだ。たとえば重力は、決してブレーンに閉じ込められない。一般相対性理論によれば、重力は時空構造に織り込まれている。したがって重力は空間のいたるところで、どの方向でも働くはずだ。》
《たとえブレーンが存在しているとしても、重力はブレーン上でもブレーン外でも、どこでも自由にふるまえる。これは重要なことだ。というのも、そうだとすればブレーンワールドは少なくとも重力を唯一の媒介として、バルクと相互作用を果たしていることになるからだ。重力がバルクに伸び、すべてのものが重力を通じて相互作用を果たすのだから、ブレーンワールドはつねに余剰次元とつながっていることになる。》
●重力すごい。重力はとても弱い。例えば磁石を近づけるとクリップは簡単に磁石につっつく。地球全体の質量でクリップを引っ張る力に、小さな磁石がクリップを引っ張る力が簡単に勝ってしまうくらい弱い。しかし重力は次元を超え、ブレーンを超える。《すべてのものが重力を通じて相互作用を果たす》。
こういう話を聞くと、当たり前かもしれないが、アインシュタインによって開かれたものはとてつもなく大きいのだなあと思う。
吉田秀和さんが亡くなられたそうだ。音楽評論家としてどうなのかは知らないけど『セザンヌ物語』はとてもいい本だと思う。
●新しいアトリエではじめて描いたドローイング。赤サインペンで。まあ、手馴らしという感じだけど。