●『響け!ユーフォニアム』は、一話と九、十話しか観られていないけど、これはかなりすごいと思う。まるで昔の大映ドラマ並みに、様々な物語要素(葛藤要素)を暑苦しいほどにがんがん詰め込んでいるのに、まったく暑苦しなく、とても上品なものになっている。
特にすばらしいのはキャラクターデザインなのではないか。吹奏楽部の話で登場人物が多く、しかもその多くは女子高生だから、年齢的、性別的な多様性がほとんどないにもかかわらず、主要な人物からセリフのない人物まで、ほぼ一目で見分けられるようになっているし、セリフのない「写っているだけ」みたいなキャラも、一人一人がちゃんと独立した人物であるようにデザインされている。
物語としても、たんに「先生が知り合いをヒイキした」みたいなことで揉めているのではなくて、先生もトランペットの女の子もどちらも親が有名な音楽家で、だから、今まで「みんなでがんばろう」みたいにして乗せられていたけど、実は予め定められた格差があって、結局わたしたちははじめからお前らが活躍するための土台みたいな扱いなんじゃねえの、みたいな不信感が問題で、その不信は、先輩よりもその子の方がトランペットが上手いということが明らかな事実だとしても簡単に消えるものではなくて、そこには単純に下らない集団心理みたいなものではないリアリティがある。
(コントラバスの子が、空気が悪くなるくらいだったら、先輩がソロを吹いた方がいいのではないかと発言するのも、おそらくそのこととかかわっている。)
揉め事の原因である「噂を拡散した女の子」こそが実は一番空気が読めてなくて、重たい空気のなか深刻な顔で部長が話しをしようとしているときにもお喋りをしているという(ちらっと差し挟まれる)描写とか、「あー、こういう人って悪意さえなくて無自覚なんだなあ」というリアリティがある。
自分の気持ちを押し殺して納得しようとする先輩と、それに納得できない、先輩を慕うデカいリボンの女の子との関係も、紋切り型と言えばそうなのだけど、紋切り型を一歩踏み越える瞬間がちゃんとある。彼女にとって重要なのは先輩の気持ちで、その意味で彼女は、部に蔓延する不信感とはあまり関係がない(彼女が先生に直接問いたださなくても、噂は暗黙のうちに蔓延し、演奏は弛緩していっただろう)。そしておそらく、リボンの彼女との関係があるからこそ、先輩は(自分が「本当は納得していないのだ」という事実を受け入れることができて)再オーディションの希望者として手を挙げることができた。この二人の関係による展開は、確かに「部の空気の悪化」という背景(環境)のなかで進展するのだけど――それがなければ再オーディションもないのだけど――空気の悪化そのものとは別の、独立した関係・展開だと思う。
それから、基本的に新入生目線の話なので、先輩たちの間に「既にある関係性」がいまひとつ不透明で、その謎の感じも、物語の奥行になっていると思った。