2020-06-29

U-NEXTで、森崎東『女咲かせます』を観た。上昇と下降、そして視線と宴会。

●川谷拓三も平田満名古屋章も、松坂慶子を見ている。川谷は愛情と監視、平田はただ引きつけられるように、名古屋は監視。特に面白いのは平田の視線。平田のまなざしは、冒頭近くで港の突端から船を見つめているカットから既に印象的だ(平田が船を見上げているカットに、クレジットタイトルの「平田満」の文字が重なる、これは意図的だろう、平田満はこの映画の一つの軸だ)。炭鉱の事故で記憶喪失になったという平田は、目の前に居る女性を自分の妻だと思い込む。その視線の先にはいつも松坂慶子がいて、その後をついて歩く(同じく、愛をもって松坂を見つめる川谷と衝突する)。そして、時間を知るためにそこにはない腕時計を見る。一方、松坂が見ているのは役所広司で、役所は常に高い位置にいる(新幹線の二階席など)。

エレベーター、階段、ダスト・シュート、ボタ山松坂慶子は、ぶら下がり健康器から無残に落下するが、ダスト・シュートから滑り降りる時はきれいに着地する。そして、役所広司、川谷拓三と横並びで弁当を食べた後、駅の階段を泣きながら下り、警察署の階段を(「逃げてもいい」「動けなくなった」と言う)川谷拓三を引っ張り上げるように堂々と昇っていく。平田満は、船で去る松坂を目で追いながら歩いていて海に落下する。ラストはボタ山を昇る松坂。

繰り返される宴会。松坂と故郷の高島の仲間たちとの数々の宴会。川谷拓三と柄本明が酔い潰れている背後で行われている謎の宴会。そして、奇術師のスーツを着た役所広司たちの宴会。

●「貧困」というものの像が、この映画が作られた87年と現在とでは決定的に異なってしまっている、ということを感じた。監視カメラのない時代の映画、とも思った。