2021-02-20

柄沢祐輔の作品集『アルゴリズムによるネットワーク型の建築をめざして』の最初のところに、「スモールワールドネットワークの図式を使って桂離宮を分析した図」が載っているのが興味深い。

正確には、エリー・デューリングによる「脳に反して思考する」というテキストと、柄沢さん本人による「関係性を顕在化させるアルゴリズムによるネットワーク型の建築」というテキストの間に、桂離宮を分析した図が挟まっている。エリー・デューリングのテキストに桂離宮についての長めの言及があるので、たんにそれを受けてのものとも考えられるが、しかしこの図はエリー・デューリングがテキストに書いたことを図示するものではなく、むしろ、柄沢さんが自作のコンセプトを示すために用いるスモールワールドネットワークの概念から分析されたものなので、二人の合作というか、二つのテキストをつなぐものとしてあると考えられる。

なににせよ、柄沢さんの作品集に掲載される最初の実作が桂離宮であるということが、おもしろくもあり、納得できることでもある。

●エリー・デューリングによる桂離宮への言及は、納得できるし、とてもおもしろくて、掻き立てられる。《自身が遠くから没入している》。以下、「脳に反して思考する」から引用。

(「Thinking against the brain」、かっこいいタイトルだ。)

桂離宮とその周辺の庭園での経験は、建築の構成の可能性について非常に貴重な例を示す。書院と庭園をつなぐ小径を散策すると、それぞれ切り離された風景を周遊する視点が、自身の動作によって再構成するという、特有の動的性質を体験できる。植物や建築の要素は表面上切り取られ、透明な平面に貼り付けられ、お互いに覆い被さりながら、まるでアニメーションの動画のために描かれたように見える。》

《変動する光と影の移ろいが混じり合った混合体を引き立てるために通常の遠近の配置をぼやかすことで、庭園は即時に広々として平面的、かつコンパクトで不思議なほど無形的になり、見る者が中心性の感覚を取り戻したり、調整しようとするにつれて、視差移動の絶え間ない相互作用が行われる。》

《人工的にアニメーション化された、自然の変化する風景によって伝達される全体的な印象、また矛盾する視覚的、動的な合図の満ち引きにより引き起こされる視点の一定の置換は、体外離脱体験による無重力状態、または無重力状態での飛行の感覚に類似している。それはまさしく自身が遠くから没入している、いわば即時的に接続し切断するような超現実的な質の立体映像に非常に近い。》

《内部はある基本的な要素をモジュール化して繰り返すことで発生する移り変わる空間であり、多様なデザインパネルと連結する仮想ボリュームの積層によって偶発的に不透明化されている。》

ヴァルター・グロピウスによると、「平面には静的な概念、対称性、中心的な焦点がない。ここでは芸術創造の唯一の媒体である空間が、魔法のように浮遊しているようにみえる」。その体験は、より形式的なレベルにおいて、離宮の全体的な地形のなかで、これらの領域それぞれが他の領域と関わる相対的なアクセシビリティと不可視性の交錯する関係性によって強化される。》