2022/08/30

●『モザイクジャパン』には、二つの重要な軸があると言っていいと思う。一つは、物語の主線となる永山絢斗とハマカワフミエとの関係で、もう一つは、ほとんど表に出ない潜在的な軸としてある、高橋一生と二人の女子高生との関係だ。

二人の女子高生は、高橋一生とわちゃわちゃじゃれ合っている場面がインサート的に示される場面と、永山絢斗の車に乗って、「さる有力者」の元へ賄賂として捧げられる場面くらいしか登場しない。後者でも、まともに映し出されることはない。しかし、彼女たちは不在のまま(というかその「不在」によって、その不在を示す二つのデコられたスマホによって)この作品を貫くようにして強く作用している。

あらゆる不都合をモザイクで隠し、よい塩梅で、不都合などないかのような体で、処理することで成功し、モザイク世界を支配してきた高橋一生も、二人の女子高生の死だけはモザイク処理で誤魔化すことができず、しかしそのせいで破滅する。文字通り、モザイクによって成功した高橋一生もまた、モザイクに耐えきれなくなって滅びる。これがこの作品のもう一つの重要な軸だ。

(モザイクによって成功した高橋一生が、永山絢斗に命じて、海外にサーバを置く「モザイク無し」のAV配信会社をつくらせるのは、明らかな自己否定であり、高橋が自らの破滅を潜在的に欲していたことの現れとも言える。)

そして、そんな高橋から、「お前の存在こそがモザイクだ」と言われる永山絢斗が、彼の後を継いでモザイク世界を運営して維持させる。だが、二人の女子高生が殺されてしまったのと同様に、永山が愛したハマカワフミエもまた、このモザイク世界から抹消される。ラストではなんとなくきれいに、あたかもジンバブエに居場所をみつけられたかのような形になっているが、少なくともこの「モザイク世界」には彼女の居場所はなかったということだ。永山絢斗のさまざまな努力、さらに、永山との間に芽生えた愛情関係でさえ、彼女が自分にとって息が出来る場所を「この世界」のなかでつくることにはつながらなかった。

(ハマカワは、抹消されたのではなく、自らの意思で脱出したのだとも言えるが、しかし、果たして脱出先は存在するのだろうか。)

二人の女子高生も、ハマカワフミエも、そして高橋一生でさえも、そこから排除されたモザイク世界に、あたかもモザイクの貴公子であるかのごとく(はじめは強く拒否していた)永山絢斗が君臨するという強い皮肉でこの物語は終わる。

確かに、この作品のあらゆるところに、モザイク世界への嫌悪や憎悪が響いている。しかし、この作品でなにより貴重なのは、モザイク世界の貴公子たる永山絢斗と、はじめからモザイク世界に居場所などみつけられるはずもなく、にもかかわらずモザイク世界で奴隷として消費されていたハマカワフミエというまったく異質な二人の間に、数限りない行き違いがあった末、それでも愛情関係が一時は成立したというさまが描かれているというところにあると思う。

(しかしその裏に、二人の女子高生の死と高橋一生の破滅が響いているのだが。)