2022/08/29

坂元裕二脚本ということで、『モザイクジャパン』を観た。2014年、WOWOW製作のドラマ。さすがにこれは地上波では無理だろうと思うのは、AV業界が舞台で性描写がたくさんあるからというより、他の作品にもチラチラ見られる、日本的なもの、保守的なものへの嫌悪が丸出しになっていて、ブラック坂元全開になっているから、という方が強い。

ただ、約30分×5話では、展開を十分にしきれないという感じはあった。最終話(5話)は素晴らしいと思うが、それ以前の1話から4話が、最終話のための前振りみたいに感じられてしまい、1~4話を観ているときには、なんというのか、「この作品は面白いに違いない」という確信をいまひとつ持ち切れないまま、ちょっととっちらかっているかなあ、という印象を持ちながら観ていく感じになった。。

(1~4話を観ているときは、面白いのかイマイチなのか、あるいは、信用してよいのかよくないのか、ずっと揺らいでいて、最終話を見てようやく、ああ、やはり信用してよかったのだ、となる。)

(2話から3話へ移行するところで、主人公=永山絢斗の態度が180度変わって、その理由として「ハマカワフミエを自分の手で救いたい」というのがあるのだが、進行のテンポが速すぎて、観ている側としてはこの「態度の急変(キャラの変更)」をなかなか「腑に落とせない」ままで、物語だけが先に進んでしまうという感じがある。進行の速度がとても速いので、その一つ一つを観ている速度で腑に落としていくのが難しく、そして「速さ」それ自体が---たとえば『初恋の悪魔』の第一話のようには---驚きと充実にうまくつながらないように感じてしまった。)

(腑に落とせない速さでめまぐるしく事態が進行していくというのは、登場人物である永山絢斗の心境とシンクロしてもいる、ということもあるのだろう。)

そもそも坂元脚本の多くでは、途中の段階ではどこに行こうとしているか分からないし、とっちらかっているようにもみえるのだが、しかしそれは構成が多焦点的であるからそうなので(つまり、とっちらかっている=多焦点的に充実している、ということなので)、でも、この作品では、あくまで永山絢斗とハマカワフミエとの関係が中心にあって、それ以外の人物や舞台設定が、二人の関係を成り立たせるための背景として形作られているようにも感じられて(しかしそれにしては二人の関係だけにぐっとフォーカスされているというわけでもない)、つまり多焦点になりきっていないので、「とっちらかっている=確信を持ち切れない」という印象なのだと思う。

(最終話では二人の関係にぐっと寄っていった上で決着をつけているので、最後には納得する。)

とはいえ、ブラック坂元全開はとても痛快なので(ドラマそのものは痛快とはとても言えない苦い---特にシスヘテロ男性にとっては見たくないものを突き付けられる---ものだが)、地上波ゴールデンよりはマイナーな枠で、ブラック坂元全開の60分×10話をやってくれないだろうかと思うくらいには、面白かった。リンチにおける『オン・ジ・エアー』のような、人のひんしゅくしか買わないようなやつも、坂元裕二という名前があれば実現可能なのではないかと夢想してしまう。

(おそらくこのドラマを観たほとんどの人が思うと思うが、ハマカワフミエという俳優がすばらしく、そして、こういう人をちゃんとみつけてきてキャスティングするのもすばらしい。)