2023/12/31

⚫︎芸術というものを「わたしの生」という視点から解釈するなら、「自分なんか下らない、とるに足らない存在だ」と思い込ませようとするあらゆる社会的、政治的、世俗的な力に抵抗するために必要なもの、で、また、神のいない世界でニヒリスティックなアイロニーに陥らないで生きるために必要なものだ、ということになると思う。

しかしここで、「自分など下らない存在だ」と思わないために重要なことは、自分を大切にするということとは逆に、自分より「世界」(決して「社会」ではなく)を大切にするという方向性だと思う。それはたとえば、自分が生きている現在と同じくらい、まだ生きていなかった過去が重要であり、もう生きていないであろう未来も重要であると考える、というようなことだ。

(「自分などとるに足りない」と思わない、ということと、「自分は特別だ」と思うこと、とは違う。というか、「とるに足りない」と「特別だ」が排他的に二項対立する意味空間―-それはけっきょくどちらも自分本位なのだ-―とは別の価値観を持つのが芸術だ、ということだと思う。「わたしの生」の充実のためにこそ自分本位の意味空間から離脱する、というのは、宗教的実践のようだとも言えるが、だとすれば、芸術は、「神無し」で行う、「神無し(教祖無し)」で成立させなければならないという条件下で行われる、宗教的実践に近いもの、なのかもしれない。)