2024/02/03

⚫︎『不適切にもほどがある ! 』、第二話。宮藤官九郎、完全復活の予感。

阿部サダヲの役が今年88歳(昭和10年生まれ)だということで、昭和10年(1935年)生まれの有名人を検索して調べてみたら、美輪明宏浜木綿子吉行和子北村総一朗八名信夫肝付兼太、という感じたった。ぼくの父親が今年86歳なので、阿部サダヲとほぼ同世代と言っていい。それにしては現在への順応力がすごい。スマホを使いこなせているし、「メンタル」などという言葉が自然に口から出てくる。また、ムッチ先輩はネタとしても、河合優美の80年代ヤンキー感がすごいリアルだ。「純子」という役名は、「ビー・バップ・ハイスクール」の三原山順子からきているのだろうか。

(「ビー・バップ・ハイスクール」の連載は83年から始まっていて、映画の一作目は85年公開だ。)

ただ、これはちょいちょい指摘されていることだが、時代考証がちょっとズレている感じはある。いや、考証は合っているのかもしれないが、感覚がちょっとズレているというべきか。1986年が舞台ということだが、感じとしては、82年か83年くらいの感じ。86年には近藤真彦はアイドル最前線というよりも既に安定期に入っていたと思うし、一話でしばしば引用された「ハイティーン・ブギ」は82年の曲だ。ジャニーズで言えば、85年には少年隊がデビューして一世を風靡していて、たのきんやシブがき隊のような荒削りなアイドルの活躍した80年代初期からややモードが変わりつつあった。松田聖子は出産している。

ぼくの実感でも、80年代は前期と後期とでかなり空気が違う。バブル前夜の景気はいいが呑気でのどかな感じと、バブル過熱期のイケイケでえげつない感じの違いというか。このドラマは、どちらかというと80年代前期のにおいを感じる。

(ただ、河合優美の髪型は「聖子ちゃんカット」なのではなく、ヤンキーなのだから、キャラも含めて参照項としては中山美穂くらいの感じなのだと思う。記憶は定かではないが、河合優美の部屋は「毎度おさわがせします」の中山美穂の部屋に似ている気がする。だとすれば、時代的にも合っている。一話では「DESIRE」の明菜を意識した前髪、みたいなことを言っていたが、中森明菜感はあまりない。)

宮藤官九郎は1970年生まれだから、80年代を中学生、高校生として実際に経験しているはずなので、この感覚のズレは意図的なもので、おそらく物語上の仕掛け(伏線)の一部なのではないかという気がしている。あるいはたんに、河合優美が、若いけど懐古的なキャラなのかもしれないが。

それと関係した話で、このドラマが、どの程度86年当時に起こった事件を絡めてくるのかという点も気になっている。どんでん返しのように、驚くような形で当時の事件が物語に関与してくるのではないかという予感がある。それによって、なぜ「1986年」なのかという意味が見えてくるのではないか。一話で、「1986年冬」という字幕が出たが、「冬」というのが、1月、2月のことなのか、12月のことなのかはっきりしないというところも気になっている。

(追記。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の日本公開が1985年12月なので、その直後、あるいはヒットしているさなかだとすれば、このドラマの「1986年冬」というのは、1月、2月くらいと考えられる。)

(吉田羊と坂元愛登が現在から86年に行ったのは、メガネの男の子が阿部サダヲから「お前ならタイムマシンを作れる」と言われて、自分の将来の目標を定めた年だったからだろう。)

⚫︎このドラマは、昭和末期と現在とを直接ぶつけ合わせることで生じる相互批評・相互批判として成り立っているので、どちらか一方にウェイトがかかってしまったらダメになってしまうというギリギリの線を行っている。だから、笑いながらも手に汗握るというスリリングな感じで、けっこう緊張しながら観ている。

⚫︎「ビー・バップ・ハイスクール」(映画)のヒロインの名は三原山順子(宮崎ますみ)と泉今日子(中山美穂)で、これは当然、三原順子小泉今日子からきている(現在のこの二人の立場の違いにはなかなか凄まじいものがあるが)。「不適切にも…」で、一方の順子は、純子=河合優美として作中(過去)に存在し、もう一方の今日子は、小泉今日子本人として、現在と過去とを繋ぐ役割を担う。