2024/02/02

⚫︎「透明性―虚と実」(コーリン・ロウ、ロバート・スラツキイ)に書かれる「虚の透明性」の実例として有名なル・コルビュジエのガルシュの住宅(ヴィラ・シュタイン)の分析について自分なりにまとめてみる。画像は、大成建設のウェブサイトにあった模型の写真をお借りして、加工した。

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ガルシュの住宅は、こんな感じ。

ロウとスラツキイは、コルビュジエの建築の透明性は、ガラスの透明性とは関係がないとする。この住宅の透明性は、建物の最も前面にあるガラス窓を含んだ壁面の、すぐ後ろに、もう一つの(ほとんど)実在しない、《概念上の》一つの面の存在が感じられることから来るのだという。まず、この建物の最も前面となる面は、下のようになっているだろう。

そして、奥に、もう一つの面があるのを感じる。

この二つの面の位置関係は下のようになっている。

そして、この二つの面の間に、ほぼ仮想的なもう一つの面がある(かのように感じられる)。

この、二つの「中間にある面」は、物理的には、最前面からやや引っ込んだ一階部分しか実体がないにもかかわらず、一階から屋上の自律壁まで上へ向かって続く線的要素、また、隅角部で回り込んだガラス窓の奥が作る線的要素が上部まで連続していることによって、三つの面の中で最も大きな広がりを感じさせる面になっている。

厳密に見れば、ここにも、弱めの、仮想的な面がある、とも言える。

この論文では、ファザードから一歩引っ込んだところにある(ほぼ)仮想的な面が、ファザードに対する透明性を発生させているとする。というか、この建物の外観を決定しているのは、実体のあるファザード面でも、同様に実体のある奥に引っ込んでいる面でもなく、中間にある(ほとんど存在しない、わずかにしか実体がない)仮想的な面であり、前面と後面は、この仮想的な面との関係によって測られる存在だとさえ言えるだろうと思う。つまり、虚構的な中間の面が基底面となることによって、三つの面の間に振幅や多義性が生まれ、「透明性」が生まれている。

下図の「2」が、最も広がりの大きい仮想的な面。

このような、横に広がって層的に重なる外観を持った建物を見ると、我々はその内部空間もまた、横方向に広がる空間として分節化されていると予想(予感)する。特に、窓の隅角部分にまでガラス窓が回り込んでいることが、一層、その印象を強く感じさせる。下の画像は、この建物の二階部分の空間を表している。

しかし、この内部空間は、外観からの予想を裏切って、下のように空間の分節化がなされていると言える(この平面は、一階と二階とを貫いているという設定で描いてあります)。

外から見た時に知覚された三つの面は、下のような層として分節化されていた(この平面は、一階と二階とを貫いているという設定で描いてあります)。

ここで、内側から経験される空間の分節と、外から見た時に予測(予感)された空間の分節とが食い違い、知覚のコンフリクトが起こる(この平面は、一階と二階とを貫いているという設定で描いてあります)。

ここで起こる矛盾する知覚のコンフリクトにより、虚の透明性が発生するというのがロウとスラツキイの主張だ。

下の画像は、建物の壁を取り除いた状態だが、これを見ても、内部空間が、横ではなくて縦(奥)へ向かって伸びていて、外観と食い違っていることがわかる。

だからここには、二つの異なる「虚の透明性」があることになる。一つは、(ほぼ)実在しない虚構的な基底面が発生することで起こる「虚の透明性」で、二つめは、予測された空間と経験された空間が食い違うことによって起こる「虚の透明性(コンフリクト→相互貫入)」だ。

「透明性―虚と実」で、ここまで説明されてきた「虚の透明性」は後者であるはずだが、それとは別に、前者の「虚の透明性」もあるということになる。だが、この前者の「虚の透明性」については、この論文ではこれ以上は追及されない。