2024/03/03

⚫︎引用、メモ。桂離宮とその庭園について。エリー・デューリング「脳に反して思考する アルゴリズム空間のパフォーマンス」(『柄沢祐輔 アルゴリズムによるネットワーク型の建築をめざして』所収)。

(以前も、ほぼ同じようなところを引用したことがあるかと思うが、改めて復習として。)

《(…)知覚できる建築の範囲においては視覚的距離については分離を、また動的近接(私たちの境界のある要素が「手の届く範囲内」にあると瞬間的に感じる感覚)については接続を思考することが自然である。もちろん、遠位と近位、視覚的と動的は程度の問題として連続的な言葉と理解することができる。ゲシュタルト心理学によって掘り下げられた知覚の法則(例として、図地反転の裏に潜む知覚の法則)は概して局所的な一連の行動の原則に従う平衡化のメカニズムに究極的には依存する。そういう意味では、「遠くの行動」は存在せず、遠位とはただ異なる、または遅れてくる近位の体験となる。しかし、空間的性質を構成する限りにおいては、程度の差異より性質の差異の方がより著しい。すなわち、最初に近位と遠位の分離がある上で、接続と分離の関係が空間の基本的な区切りや性質を明らかにする限り、出現する形態は本質的に離散的である。実際は、そのような関係性に基づき、空間自体が、結局のところすべてを包み込む媒体(均質または不筋質に関わらず)ではなく、結節点のネットワークとなる。》

《脳に反して思考することは、何よりもまず、射影空間の呪文を解く、またはその内側から破壊することである。離散性に対する期待は、射影空間の内側に見つけることができる。日本の伝統的な木版印刷や現代建築図面でよく見られるアクソノメトリック表現技法は、その代表例である。そこでは、浮遊する視点が何かと不規則に二つの相対的に互換性のない視点の間を平行移動し多安定的な透視画の構成と唐突な図地反転を許容しながらも、絵画空間の奥行き方向の連続的な拡張の錯覚を破壊する。一方アルベルティ的透視画法による表現では、遠位と近位の間に存在する全体的な連続性の感覚は水平線へと収束していく視線を辿ることへの可能性の結果、または視覚的に収斂する事実と徐々に後退する形のオーバーレイ(重ね描き)による手掛かりに依存することである。対照的に、水平線が欠落している、または倍増している場合、空間全体が中断され、幾分不連続である。二つの異なる軸に規定され、それは本質的にせん断しているように見える。》

《上記とは幾分異なるものの、その間接的な体験は三次元映像といくつかの建築物によって体験することができる。桂離宮とその周辺の庭園での体験は、建築の構成の可能性について非常に貴重な例を示す。書院と庭園をつなぐ小径を散策すると、それぞれ切り離された風景を周遊する視点が、自身の動作によって再構成するという、特有の動的性質を体験できる。植物や建築の要素は表面上切り取られ、透明な平面に貼り付けられ、お互いに覆い被さりながら、まるでアニメーション動画のために描かれたようにみえる。変動する光と影の移ろいが混じり合った混合体を引き立てるために通常の遠近の配置をぼやかすことで、庭園は即時に広々として平面的、かつコンパクトで不思議なほど無形的になり、見る者が中心性の感覚を取り戻したり、調整しようとするにつれて、視差移動の絶え間ない相互作用が行われる。人工的にアニメーション化された、自然の変化する風景によって伝達される全体的な印象、または矛盾する視覚的、動的な合図の満ち引きにより引き起こされる視点の一定の置換は、体外離脱体験による無常力状態、または無重力状態での飛行の感覚に類似している。それはまさしく自身が遠くに没入している、いわば即時的に接続し切断するような超現実的な質の立体映像に非常に近い。》

《書院建築については、その雁行配置が「シフトする平面の積層」を好み、「すべての対称性や中心性を放棄する」方法として磯崎新によって適切に説明されている。これらは「人間の視点を中心として空間に奥行きを無限の彼方に向かって先導する、西洋遠近法とは際立って対照的に、奥行きを表現する」ように配置されている。内部はある基本的な要素をモジュール化して繰り返すことで発生する移り変わる空間であり、多様なデザインパネルと連結する仮想ボリュームの積層によって偶発的に不透明化されている。ヴァルター・グロビウスによると、「平面には静的な概念、対称性、中心的な焦点がない。ここでは芸術創造の唯一の媒体である空間が、魔法のように浮遊している。ように見える」。その体験は、より形式的なレベルにおいて、離宮の全体的な地形の中で、これらの領域それぞれが他の領域と関わる相対的なアクセシビリティと不可視性の交錯する関係性よって強化される。》

《空間は浮遊している。空間の中の何かではなく、空間自体が、である。流れているのではなく、浮遊している。》

⚫︎以下は、『柄沢祐輔 アルゴリズムによるネットワーク型の建築をめざして』で示されている桂離宮庭園のダイアグラム。