きな粉をまぶしたような色の死にかけた蛾が、羽根をブルブルと震わせて、アスファルトの地面の上にいた。必死に飛ぼうとしていて、羽根をめいっぱい動かして、ようやく少し浮いたかと思うと、方向を制御できないらしくて、すぐに地面に激突する。それでもまだ飛び立とうとして、その場でブルブルと震えつづけている。羽撃く、というより痙攣にちかい。
きのうは夏至だった。夏至を過ぎて、1日1日とだんだん日が短くなってくるのが、なんとなく悲しいのは何故なのだろうか。別に、暗くなったら遊びを中断して家にかえらなくちゃいけない子供じゃないんだし、太陽の下で身体を動かすのが好きなアウトドア派でもないのに。それどころか、どちらかというと日の光を避けるように、夜中に活動したりする方だったりするのに。この悲しさは、フィジカルなもの、季節の変化に対する人体の反応みたいなものに由来するのだろうか。これからも、まだまだどんどん暑くなってゆくというのに、真夏の暑い盛りにも、実は少しづつ日は短くなってゆくのだった。
流しの壁に貼ってあるクリーム色のタイルに、窓の外からの光が反射して、光があたっている部分に、外の風景がうすぼやけてではあるけれど、映っている。タイルの表面の僅かな歪みで、風景は波うつように変形している。しかしそこには確かに、窓の外にある木々の緑や、灰色がかった空の色が認められる。
夕方、ほんの一瞬だけヒグラシの声を聞いたような気がするのだけど、空耳だったのだろうか。