春の日

近くにある公園で散ったらしい桜の花びらが、ここまで流されてきて舞っている。強いけどどこかとろっとした暖かい風が、黄色味がかった若い葉をつけた木々をざわざわと揺らして吹き抜けている。鈍くぼやけた空の青。滲んだ雲。少し曲がりながら上っている公園前の道路には、花見をするための路上駐車の車がずらっと並んで道路の幅を狭めている。ユキヤナギの白くて小さな花が、、そこここからひゅーっと伸びている茎にびっしりと咲いていて、長い茎は花の重みでしなって下を向いている。暖色のつよい、濁った感じの光が、重たく淀んでたゆたっている。荒っぽく吹きつける風も、どこか粘っていて重ったるい。引っ越し用の大型トラックが唸りながら坂道を上ってきて、ナマリ色の荷台に日の光を鈍く反射させ、砂ボコリを舞い上げて低い振動とともに通り過ぎる。団地のベランダには、たくさんのシーツや布団がびっしりと並び、あたたかい光をその身に受けとめてふくらんでいる。《男の神経は弛緩し、記憶の海綿体にこの風景が染み込んでゆくのを楽しみます。》(島尾伸三)光が海綿体に侵入してきてそれを満たし、膨張させる。光に対して反応する、眠ったくてゆるゆるの欲情。