●何かの機械が作動しているゴォーッという音が、どこからともなくずっと聞こえつづけている。シュルシュルシュルッとか、ゴホゴホッとかいう、水の流れる音も、天井にびっしりと張り巡らされている管のあちこちから聞こえてくる。上から覆いかぶさるように圧迫する太い梁が突き出、太かったり細かったりする曲がりくねる管が交錯するゴツゴツした天井には、ずっと先まで、等間隔に無数の蛍光灯が延々と並んでいて、その単調な光の反復にくらくらする。空気はまったく動かず、湿気で満ちていて、生ゴミのようなにおいまで時折鼻先をかすめる。いや、このすえたにおいは、地面も天井も壁も等しくコンクリートで、それがどこまでも続くこの場所の、そのコンクリートから染み出してくるように感じられる。そこをずっと歩いている。地面には、白や黄色の掠れた線で、矢印や仕切り線が引かれ、STOPとかOUTとかいう文字が描かれている。黒い斑点状の染みが浮かび上がり、ヒビもはしっている。歩いている靴の底がなんとなく粘つくようで、靴音が、鈍く反響する。ごついコンクリートの柱の何本かに一本の割合で、エアコンの室外機のような大きな箱状のものが取り付けられていて、その中のファンがぐるぐると回転している。様々な音がたっているものの、人の気配がなく閉ざされたこの場所は、妙に静かに感じられていたのだが、急に、ガタガタッと大きな音が聞こえ、非常口と書かれた扉が開くと、そこから青い作業服を着た3人の男が現れた。一人は、何本ものモップを束ねて肩に担ぎ(それらが互いに擦れてがちゃがちゃと音をたて)、もう一人は、床を磨くための業務用の大きくて重そうな回転する電動ブラシを乱暴に引きずり(重いものを荒っぽく引きずっているので震えてガタガタ音がしていて)、もう一人は、金属のバケツを、大きいもののなかにそれよりもやや小さいもの、そのなかにさらに小さいもの、という風にいくつも重ねたものを、片手に2つずつ、両手で4つ持っていて(金属同士がぶつかるバシャバシャいう音がして)、その3人は威勢良く乱暴な音を鳴らしながら、ぼくの歩いて来た方向(つまりぼくとは逆方向)に、バタバタと急ぎ足で去って行ったのだった。