●ひしめく看板や電飾。パチンコ、テレクラ、カラオケ、キャッシング、回転寿司、量販店、コンビニ、居酒屋、カプセルホテル、風俗店、マンガ喫茶。それらの店名が書かれた文字が、輝き、点滅し、色を変え、右から左へ、左から右へと流れ、くるくると回転する。様々な文字、様々な色、様々な大きさ、様々な形態が、いくつも重なり、同時に視界に入る。車のライトが流れてゆく。その光沢のある車体には、点滅する電飾がギラギラと反射し、映り込んでいる。排気ガスのにおい、焼き鳥のにおい、何かが腐った匂い、香水のにおい。酒くさい人の息。車道の脇に放置されている自転車に浮き出たサビ。中途半端に汚く剥がされ残った張り紙の跡。消し残された落書き。横断歩道の掠れた白線。建物の壁面の染み、や、ヒビ。ガードレールの歪み。街路樹のガサガサした木肌。自転車の籠のなかに投げ捨てられれたストロー付きの紙パック。閉じられた鉄の扉に巻き付いた鎖と、垂れ下がる南京錠。表面に溜まった砂埃。正体不明のどろっとした水溜まり。雑踏のざわめき。喧噪。重たく疲労した身体を引きずって歩く。後ろから聞こえる、女性の二人連れが話している甲高い喋り声が、トランシーバーを通した、がさついて割れたノイズまじりの音として聞こえている。そんなのは錯覚だと聞き直しても、そうとしか聞こえない。