●夢。自分が寝ているのを知っている(半分覚めている)。自分の腹の上にある左手を右手で触れる。しかし、左腕は上を向いていて左手は枕元にあり腹の上にはない。でも、右手は確かに腹の上で左手を感じている。と、思ったら、実は右手も上向きで枕の脇にあって、腹の上にはない。そこにはない左手を、そこにはない右手で触れている。そう感じた時、誰か他人の手がそこにはないぼくの左手と右手を強く掴んでぐいっと引っ張るのだった。そこにはない右手と左手が掴まれていることで、実際に枕の脇にある左手と右手を動かすことができない。
●夢。映画館で映画を観ている。スクリーンには宇宙空間が映っていて、宇宙デプリのような巨大な金属の塊がスクリーンに向かってきている。金属の塊はどんどん近づいて、やがてスクリーンは塊で覆われる。すると、客席の後ろ側から大きな音が聞こえ、振り返るとスクリーンに映っていた金属の塊が映画館の後ろの壁を突き破っている。金属の塊は、その形が崩れて、大量のピンポン玉くらいの発泡スチロールの玉となって、客席の後ろから前の方へとザザーッという感じで流れるように転がってくる。観客たちは、水を浴びるような感覚でその発泡スチロール玉を浴び、それによって自分がまったく新しい存在に生まれ変わったと自覚する。映画館を出るとそこは断崖絶壁で、はるか下界にビル群や街の灯りや流れる車たちを見る。我々は長い間ずっと、この断崖の上で暮らしてきたのだ。すると一人が、断崖から下へと飛び降りた。そして、また一人、さらに一人と、次々と下界へ向かって飛び降りる。私たちは軽々と、ビルの屋上からアーケードの屋根に飛び移り、アーケードの上をしばらく走ったのちに地面へと降りる。地上には車がひっきりなしに行き来しているが、そこに人は乗っていない。街にも、生活感だけがあって人が一人も見あたらない。もうもうと湯気が立ち、様々な香辛料のにおいがたちこめる飲食店の前で、私たちのうちの一人が中に向かって声をかける。彼は何か交渉をしようとしているようだ。しばらくして出入り口のドアが開くが、誰も出てきはしない。当然だ。ここから見てもガラス張りの店の中には人がいないことが見える。なんとよけいなことをするのだ、と、ぼくは思う。ここには、別の次元で過去の人々が暮らしているのだ。ぼくにはそれが実は見えている。この店は彼らでぎっしり満席だ。そして、彼らを刺激してはならないのだ。彼らと我々は接触すべきではない。
●夢。口のなかから、歯が抜けるようにしてプラスチックの塊がぽろっと落ちてきて、それが手元でいくつかの部品(不思議な幾何学模様のようだ)へと崩れるように解体される。自分の体の中から部品が崩れ落ちた。今にも、自分の体全体がこの部品のように崩れてしのうまではないかと恐怖する。
●夢。今はもう存在しない建て替える前の実家の、今はもう存在しない祖父と祖母が使っていた部屋で、ぼくと、マツコデラックスと、もう一人誰か(女性)がこたつを囲んでいる。ぼくは、マツコから三千円借りていたことをすっかり忘れていて、それをマツコからの指摘で思い出す。もう一人いる女性に、あなたはいい歳をして、いつまでもそんなで、本当に情けない、となじられる。