●夜、7時過ぎ。雨でしっとりと湿ったその一方通行の狭い道路は、建て込んだビルに囲まれて、二つの通りを繋いで通っている。道幅いっぱいに二列に並んだ自動車(その半分以上がタクシーだ)が、(一通から抜ける、先の信号でつっかえているので)しばらく走ってはすぐ停まり、また走ってはすぐ停まりをくり返し、ひしめくように道路を埋めている。人の流れも、歩道からこぼれ落ちそうなくらいだ。そのような様子を、ぼくは歩道からやや奥まった窪みのような、雨を避けられる場所から眺めている。雨で湿った路面も、ひしめき重なる自動車のボディも、ともに、道の両側に無数に掲げられている(点滅したり、回転したりしている)ネオンを反射していて、そしてその反射した光をもまた、互いに反射し合っている。ひしめく車から多量の排気ガスが排出されているはずだが、雨で洗いながされているのか、それとも複雑に反射しあう光の雰囲気に誤摩化されているのか、空気は澄んでいるように感じられる。様々な音が聞こえて来るのだが、そのどの音も際立つことなく、全体としてザーッというノイズのように聞こえ、個々の音はそのなかに溶けてしまっている。