●細かく、冷たい雨。靄がかかっていて、高いビルを見上げると、上の方は白く霞んで消えている。その白い靄のなかから、黒いカラスが、一羽、二羽と現れ出て、再び,靄のなかへと消えて行く。トラックを停め、降ろした荷物を台車に高く積み上げ、とこかへ運んで行く人の、その積み重ねられた荷物の段ボール箱が、湿ってしんなりとして、軽くくしゃっと、潰れた感じになっている。建築中のビルに被せられたグレーの安全シートが、雨を含んで重たく垂れて、その下の鉄骨の骨組みの形を浮き上がらせている。ほんの短い間、工事の騒音も車の音も途絶えていたことを、雨の降るシャーッという音のなかに、駅から降りて来た人が傘を開く時の、スポンッ、という音が鮮やかに聞こえたことで、気付いたのだった。