●昨日からつづく雨は朝方にはいったん弱くなり、通りを行く人々も、傘をさす人とささない人が半々くらいの降りで、雲に覆われてはいても空は白く明るく、湿ったアスファルトの地面はそれを反射して白く輝き、空と地面の中間、ちょうど人が歩き、人が生息し、人が建てたビルが伸びる上空のあたりまでだけが薄暗く沈み込んでいた。道沿いに並ぶ店舗が開店するまではまだ間があり、狭い道路にひしめくネオンには灯りがなく、天と地の明るさに挟まれて光も色彩も抑制された人の行き来する中間地点では、信号機の光がやけに明るくどぎつく目にはいってくる。点滅する歩行者用の信号。狭い道路をゆっくりと移動する自動車。自動車はゆっくりとはしっているので、アスファルトとタイアのゴムが触れ合う感触が水音とともにくっきりとたちあがる。湿ったアスファルトと回転する自動車のタイアは接しては離れ接しては離れをくり返す。接している部分が離れる時そこに水分がまつわりついては軽く跳ね上がる。タイアが回転しているかぎり、接した部分はすぐに離れ、また次の部分が接し、また離れ、離れた時には既に次が接しているので、だから水は、常にタイアと地面の間にまとわりついては軽く跳ね上げられつづけていて、ゆっくりとした速度で自動車が移動している間じゅうずっと、チリチリチリチリチリという微かな、巻き込まれつつも跳ね上がる水音がたっていたのだった。