隠された「構造」

画材を買いに行った帰りの電車のなか、若い妊婦とその母親と思われる2人連れがいた。母親は妊婦をいたわるような感じで脇に立っていた。母娘にしてはあまり似ていないなあ、と思いながら、電車も混んでいたし、それっきり忘れてしまった。アトリエに近づくにしたがって電車は空いてきて、イスに坐ることが出来た。途中の駅で左隣に坐っていた人が席を立つと、その先の隣にはさっきの母親がいて、その向こうに妊婦が坐っていた。2人とも、うつらうつらと眠っている。つまり左を向いたぼくの視線の先には、母親と妊婦の横顔が2人分並んでいたのだった。そしてその2つの横顔のシルエットは、額から鼻にかけてといい、鼻から口元にかけてといい、口元からアゴにかけてといい、ほとんど同じ形をしていたのだった。2人の顔の印象はかなり違っていたのだが、なるほどこうして見ると親子に間違いはないだろうと思える。こんなところに隠された「構造」があったのだった。