●八か月ぶりくらいに髪を切った。なんとなく、そういうことをしたくなる陽気だった。髪は雑草のようにのびていて、出かける時は帽子で誤魔化していたのだが、もういい加減誤魔化しきれないひどい感じになっていて、近いうちに切らなくてはと思ってはいたのだが…。十年以上ずっと通っていた美容院があって、しかし、そうだからこそ、一度足が遠のくと行きにくくなってしまう。四年ぶりくらいに思い切ってその美容院に行ってみた。そういうことをしたくなる陽気だった。外階段を二階へと上ってゆくと、節電のためか出入口のドアが開け放しになっていて、こちらの心の準備が出来る前にカウンターのところに坐っていたおっちゃん(美容師)と目が合った。目が合ったとたんにおっちゃんの顔がほころび、おお、久しぶり、元気にしてましたか、と言った。それで「行きにくかった」感じがすっと消えた。店内に入ると、線路側に開けた大きな窓も開いていて、かすかに風が通っていた。シャンプーが終わってから、おっちゃんは窓を閉め、冷房のスイッチを入れた(開店時間からすぐだったので、最初の客だ)。おそらくこのおっちゃんが、ぼくが今まで髪を切ってもらったことのあるすべての人のなかで、仕事が一番丁寧だと思った。
●夕方の空。