●髪を切った。もう半年くらいは完全放置状態で、我ながらほんとに酷いことになっていると感じていて、誕生日の前までには絶対切りに行こうと思っていて、今日こそは絶対にと昨日行き損なってからずっと思っていて、なんとかギリギリ間に合った。坊主にしようかとも思ったのだが、いい歳をして、あまり極端から極端にはしるのも良くないと思って、ごく普通の短髪にした。髪がジョキジョキ切られるのを見ているのはとても気持ちがよかった。何人分のカツラが作れるんだ、というくらいの、大量の髪の毛が床に散らばった。体重が、五百グラムは確実に軽くなった。首の後ろ側に空気が触れる。帽子がなくても外へ行ける。
いつも、駅へ行く途中にあって目にとまっていた、美容室ではなく理容室へ(洗髪する時、前かがみ)、なんとなくカンで入ったのだが、それが当たりだった。そこの、おっちゃんというか、お兄ちゃん風に若作りしたおっちゃんが、ぼくが今まで髪を切ってもらった人史上でもっとも陽気で調子のいい感じの人で、理容師というより、ちょっと胡散臭いサーフショップのオーナーみたいな感じで(青いTシャツ、ハーフパンツ、茶髪)、実際、真っ黒に日焼けしているし、Tシャツから出ている腕と首の太さから、絶対に何かのスポーツを半端ではなく現役でやっている人に違いないということが分かるのだが、カットの説明から、時事ネタから、自分の髪型のことから、明るく軽い調子で次々話していてくれるのが胡散臭くもすごくいい感じで、それに笑いながら適当に相づちをうっていればよくて、美容院でいつも感じる、「美容師と何を話していいか分からなくて気まずい」ということもまったくなかった。顔剃りまでついて、値段も安かった。
髪を切ったら顔が弟に似てる気がした。というか、自分の顔のなかに弟を発見した。