●自転車が、山を越えるための登りに差し掛かるとすぐに右手に見える斜面は、木がきれいに刈られていて、夏には濃い緑の雑草が伸び放題だったのが、今ではその全てが黄土色に染まりうなだれるように倒れ地面に頭を垂れている。昨晩の寒さで霜がおり、黄土色の草の表面には小さな氷の粒がコーティングされたように薄白く付着していて、ほぼ正面の低い位置から射す暖色の日の光を受けてきらきらと光り、斜面全体が内側から黄色く発光しているように、そこだけ周囲の空間から切り離され浮遊しているかのように見えた。山を登り切った所にある竹林に一本だけ生えている柿の木の黄色い実にも、粉をふいたように霜の粒が付着し覆っていて、日を浴びてきらきらと輝いてはいるのだが、この時期の気象的な状況から身体が被る様々な刺激=感覚を綜合した全てと等価であるくらいに鮮やかなその柿の黄色が、今日は薄皮でつつまれたように遮断されていて、少し遠のいたように感じられた。