●自転車で山をひとつ越える。ずっとつづく坂でペダルを踏みつづける。冷たい風が吹き荒れて吹きつけ、手や顔の皮膚を硬直させる。身体の内部では熱が発生し、服で覆われた部分はじっとりと汗が染み出す。股の筋肉が張り、呼吸がはやくなる。荒い呼吸で口のなかが乾燥して、唾液が粘つく。粘ついた唾液が呼吸の邪魔をし、呼吸が乱れる。背中を流れる汗が尻の上あたりに溜まり、下着のその部分が湿る。坂を登り切ったところは竹林になっていて、そこに一本だけひょろっと高く伸びた柿の木が生えている。ぽつぽつと空中に散らばるような柿の実の黄色が、乾いた喉に染み込む水分のように、目から強烈に侵入してくる。