●別に、空ばかりをぼーっと見上げて生きているわけではなくても、嫌でも向こうから目に飛び込んでくるような空の日というのがあって、そういう時には視線は自然と空へと向かうことになる。意識的に見ようとしなくても、人の目は見るべきものには目がいくように出来ていて、疲労と空腹の上にやたらと眠くて、駅を降りて食料を買い込んで、少しでも早く帰り着こうと俯き加減で足早に部屋へと急いでいたのだが、スーパーの先の角を曲がったところで、どぎつい程に冴え冴えと青い空が目に飛び込んできて、思わず立ち止まり、しばらくそのまま上を向いて眺めていた。その色のせいか、やけにぐーんと大きく広がって感じられる空を、飛行機がひどくゆっくりとした速度で、飛行機雲を吐き出しながら移動していた。
●元旦に降ってその夜の寒さで凍結した雪は、日向ではすっかり溶けているが、日陰ではまだ凍ったままで、道路に、つるつると滑るところとそうでないところの斑模様をつくっている。雪が溶けたところでは普通に歩き、凍結したところでは滑らないように慎重に、足を蹴り上げないで垂直にそっと上げ、静かにしっかりと着地するように歩くのだが、ちょっと油断していると、溶けたところと凍結しているところとの境目で、歩くモードチェンジが出来ていなくて、するっと足をとられて滑りそうになる。家々の屋根に積もってそのまま凍った雪が、今頃になってようやく本格的に溶け出したみたいで、駅からアパートまでの間にある家やアパートの多くの屋根や雨樋から、ぽたぽたと音を立てて水滴が垂れ落ちているのを見、その音を聞いた。