●四時頃に目が覚めて、昨晩飲んだせいかひどく喉がかわいていて、でも、冷蔵庫のなかの二リットル入りのスポーツドリンクのペットボトルは残り僅かで、それを飲干してもまだ全然足らない感じで、それでも、生温い水道水を飲む気にはならなくて、近くの自販機まで飲み物を買いにゆくことにした。住んでいるのは本当に住宅しかない住宅街のなかのアパートで、一番近いコンビにまでは十二、三分歩くし、一番近い自販機にさえ、六、七分かかる(しかも六種類くらいしか飲み物がない)。ジーパンをはいて、ポケットに小銭があるのを確認して、半ば寝ぼけたまま外へ出た。
部屋を出て飲み物を買ってまた部屋に戻るまでの十二、三分のちょうどその間が、夜中から明け方に変わる境目の時間だったらしく、部屋を出て、駅の方向へ向けて緩い坂道を下っている時にはまだ、空は微かに明るくなってはいても夜中の雰囲気が濃厚で、しーんと静まり返ったなかに虫の声だけが聞こえる感じだったのが、自販機でコーラとグレープフルーツジュースを買って、コーラを脇に挟んで、グレープフルーツジュースの蓋をあけて口をつけ(炭酸飲料はやはり、コップにあけてシュワーッという泡を見ながら飲まなくては美味しくないからコーラは持ち帰る、とはいえぼくの部屋にはコップがないのでマグカップにあけることになるのだが)、飲みながら顔をあげ、緩い坂をアパートへ向けて登ろうと視線を自販機や飲料缶から風景へと移すと、空は急速に明るさを増していて(「限りなく透明に近いブルー」だ)、ちらほらと鳥の声が聞こえ始めて、新聞配達のバイクの音が遠くに響き、急にあわただしくなって朝だなあと思いつつ、アパートの前に着いた時には蝉の声まで聞こえてくるのだった(ヒグラシは朝方にも鳴く)。