●歩行者用の、赤と青(緑)とが縦に並んだ信号機は、裏側から見ると石油ストーブのタンクのような形をしている。その信号機の上に、つやつやと光沢のある黒い羽をもったカラスが一羽とまっている。そのカラスが、カアカアカアカアカアカア、と鳴くと、それに呼応しているとしか思えない声が、どこか遠くからやや遅れて、カァーッ、カアカアカア、カァーッ、カアカアカア、と聞こえてくる。信号機の上のカラスもまたそれに応えて、カアカアカアカア(「カア」の数が前と違う)と鳴き、遠くからの声も、カカァーッ、カアカアカア、とさらに応じるのだった。どんよりと薄曇りの、昨日とはうってかわって寒い午前中。
●小型の、自家用機のような飛行機が、ブーンという軽いエンジン音が地上に届くくらいの高度で、薄曇りの、白い夕方の空をゆっくりと移動していた。左右の二枚の羽根についたオレンジ色のランプをちかちかと交互に点滅させている。駅へと向かう坂道を下りながらそれを見上げ、飛行機の動きに同調するようなゆっくりとした足取りになる。坂を下り切って左に曲がったところで視線を空から外し、腕時計に目をやって、やや早足に駅へと急ぐ。駅に着き、ホームに立って空を見ると、ついさっきまで白っぽいグレーだったのに、既に濃い群青色になっていた。
●夜には冷たい雨が降り、夜半近くには雪にかわった。指先がしびれるような冷え。