●通りにあるほとんどの店のシャッターはまだ閉まっている。空はどんよりしている。カァカァカァカァ、カーッカーッカーッ、カァーッ・カアーッ、と、異なるリズムで鳴くたくさんのカラスの声が重なる。だが姿は見えない。重なるカラスの声の隙間から、そこだけもう既に営業しているファーストフード店から流れてくるバロック音楽が微かに洩れ聴こえる。傘をさすほどではない細かい雨粒が空気を湿らせる。電車の音がして、しばらくすると、大勢の人たちの足音の響きが、塊となって階段の方から降りてくる。