粒が細かくて密度の濃い雨が、静かに吹きつづける風に流されながら次々と落ちてくる。それ程は強くない風で、重そうに葉をびっしりつけている枝がなまめかしくゆっくりと揺れ動きつづけている。四方八方に伸びている木の枝は皆、水分をたっぷりと含んだ葉の重みでしんなりとしなって垂れている。沢山の葉のそれぞれに雨粒が当って、その音が重なってチリチリと響く。建物の屋根を伝って、ヒサシから落ちてくる水滴が、地面に当ってたてる音が規則的に響く。しっとりと湿って、黄緑色にぼうっと輝いているようにみえる芝生を、濃い青の雨ガッパを着た清掃員がくまでで引っ掻いている。濡れた土のにおい。濡れた草のにおい。濡れた髪のにおい。
ちょうどここからは、木の影になって身体が隠れてしまう場所で、黒い傘をバサバサッと開いたり閉じたりして水気を払った人がいて、その傘が一瞬、やけに大きなカラスが羽ばたいているように見えた。それは、この建物の裏にカラスが巣をつくっていて、子供を育てているというそのカラスに襲われた人がいるらしい、という話を今朝聞いていたからかもしれない。スピーカーから割れた声でがなりたてている選挙カーの声が、墜落してくるんじゃないかと思えるほどの轟音で飛んでくる米軍機にかき消される。でも、雲った空で姿は見えない。