●歩行者用の信号機の上にとまったカラスが、黒くて艶のある羽根を反らし、全身を使って鳴き声をあげる。空は雲で覆われ、光は彩りを欠き、歩いている人々の表情を単調にみせる。風が強く吹き込み、しばらく立ち止まっていると寒いくらいだ。細い裏道なのだが、大型のトラックが強引に停車し、運転手は荷台から荷物を下ろし、台車に高々と不揃いな段ボール箱を積み上げて、さらに細い路地へと荷物を届けに入ってゆく。トラックに塞がれた道の隙間を、タクシーが器用に抜ける。信号機の上のカラスは、ゆっくりと大きく羽根をひろげてから、激しく羽ばかせ、一度上空へ昇ってから、羽ばたきをやめてグライダーのようにすうっと地面へ降りてくる。再びタクシーが通り、トラックに向けて邪魔だと言うようにクラクションを鳴らし、しかし隙間を器用に抜けて、すんなりと走り去ってゆく。そのクラクションに、通行人のうちの何人かが反応し、音のたった方に視線を向ける。おっさんが唾を吐く。小型の飛行機が、曇った空をかなりの低空で飛んでいる。低い音が、遅れて響く。戻って来たトラックの運転手が、台車を折りたたみ、荷台の上へ乱暴に乗せる。ガチャンという大きな音。ぼうっと突っ立っていると、冷たい風で体温を奪われるので、その場で軽く足踏みをする。パチンコ屋の前で、脚を出した格好でティッシュを配っている女の子たちも、寒そうだ。