●今はもう建て替えて無くなってしまった実家の、二階にあった自分の部屋で目を覚ますと、ガラス戸を隔てたベランダにたくさんのカラスがうじゃうじゃしていた。大きさがまちまちで、ペリカンや鷲のような大きさをもつものも、普通のカラスくらいのものも、いろいろいたし、嘴も、やけに長いのもいれば、根元で折れてしまったようなのもいる。妙に細長く、弧を描いている嘴をもつものもいた。羽根の長さやかたちにも、一羽一羽で微妙な違いがあるようだった。しかし確実にどれもカラスであることには違いなくて、どのカラスも、輝くようなうつくしい艶をもつ黒い色をしている。それを、ガラス戸を隔てたすごく近い距離で見ている。ベランダの幅は一メートルくらいしかなく、そこに数十羽がひしめいているのを、ガラス戸に顔をくっつけるように近寄って、魅了され、凝視している。羽根の一房一房、毛の一本一本までもが、くっきりと、過剰に鮮明に目に入り込んでくる。そしてなによりもその黒の鮮やかさに魅了されている。光沢をもつ硬そうな質の嘴の尖りは、それが目に突き刺さってくるのではないかという恐怖を招き寄せるのだが、ガラス戸に隔てられているので、とりあえずは心配はない。しかしふと気づくと、ガラス戸はわずかに開いていて、そこからカラスが一羽、部屋のなかに入り込んできていた。しかしそのカラスはとても小さくて、カラスというよりはガチョウのような鈍重な感じてヨロヨロと歩いている。戸を閉めなきゃ、と思って立ち上がると、既に戸のわずかな隙間には、そこから無理矢理に部屋に入り込んでこようとするカラスたちが溢れ、もはや閉められそうにない状態だった。
そこでここまでのこの夢の場面は連続性を失い、部屋に入ってきたカラスの行方を追って振り返ると、部屋は見ず知らずのとても広い部屋にかわっていて、そこには知らない大勢の人がいて、その人たちの思い思いの行為によってやたらと部屋は散らかっており(粉状のものや、粒状ものもがやたらと散らされている)、ぼくはそれに苛立って、そこにいる人たちへ非難の言葉を大声で発しているのだった。